福岡市中央区のアクロス福岡で6月21日、メコン物流環境セミナー「メコン地域における越境物流サービスの実態」が開催された。
第2部では、日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部アジア大洋州課 課長代理の小野澤麻衣氏が、「メコン地域の物流事情」について講演した。メコン川流域エリアの実走調査を踏まえたうえで、物流ルートである経済回廊の現状を述べた。
多数の日系起業の進出により、飛躍的な発展を続けているタイ。しかし、国内の労働力の不足・賃金の上昇などの問題が生じている。そこで、周辺のメコン地域に工場を誘致し、タイから溢れ出るビジネスチャンスを活かすため、各国を結ぶ物流ルートのインフラ整備が進んでいる。
今回は、5つの経済回廊(下図参照)の調査結果が報告された。
図の「1.国道5号線ルート」と「2.沿岸ルート」は、バンコクとプノンペンを結ぶ南部経済回廊だ。カンボジア側の沿岸ルートを除いて、すべての道路の整備は万全ではないが、ほぼ問題なく走行することができる。このルートが整備されたことで、日系企業はタイとカンボジアでの生産分業が可能となった。
また、カンボジア政府・国民は非常に穏やかで、輸送・貿易面での問題もなく、少ないコストで大量の労働力が見込める。さらに、LDC(後発開発途上国)に対する特別関税や税制度の優遇措置なども魅力的だ。最近では、バンコクとポイペト(タイとカンボジアの国境)との物流ルートとしても活用され始めている。
「3.プノンペン-ホーチミン・ルート」は、国境間に位置するカンボジアのバベット/ベトナムのモックバイを結ぶ回廊になっている。昨年12月に行なわれた実走調査報告では、道路に街灯が設置されていなかったそうだ。また、メコン川を渡る舟は夜間運行を実施していないため、夜間走行は極めて制限されている。
しかし、同じ位置に、日本政府がタイ・カンボジア・ベトナムを結ぶネアックルン橋を建設中とのこと。2015年の完成を予定しており、南部経済回廊の利便性は極めて高くなるに違いない。
東西経済回廊「4.バンコク-ダナン・ルート(バンコク-ハノイ・ルート)」では、第2メコン友好橋の開通によって、タイ-ラオス-ベトナム間を行き来することが可能となった。また、バンコク-ハノイ間では陸路インフラ整備・日系企業による貨物輸送サービスが始まっている。つまり、陸路を活用したベトナム・タイ間での物流は増加傾向にある。
一方で、ラオスやベトナムなど、インフラが十分に整備されていない状況が続いている。実際に、第3メコン橋を使ってハノイに向かう際(図:緑線から青線へ)、速度40km以下しか出すことができなかったそうだ。
「5.ハノイ-南寧/広州・ルート」は、ベトナムと華南地域(中国)を結ぶ陸路物流ルートとして利用されている。また、ベトナム北部への日系メーカーの集積にともない、ベトナム向けの部材などの荷動きが盛んに行なわれている。さらに、ASEAN地域に向けた生産設備などの輸送ニーズも増加している。
しかし、海上輸送ルートの便数拡大やコスト低下が進み、陸路輸送の重要性はそれほど高まっていないのが現状だ。今後、回廊のさらなる開拓を進め、利便性とコスト面での改善が求められている。
小野澤氏は「物流ルートを、各国を横断する陸路物流網として考えると、リスク分散・コスト軽減につながる」と話した。メコン川流域エリアとパートナーシップを結んでいる日本政府。インフラ整備が進み、輸送での問題が解消すれば、日系企業のさらなるビジネス拡大に期待できそうだ。
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