「省エネ断熱改修普及のための日独連絡協議会」設立発起人であり、(株)日本エネルギー機関(JENA)代表取締役の中谷哲郎氏に聞いた。中谷氏は「福島原発事故(3.11)は私がこの事業を推進する大きな動機の1つです。原発はないに越したことはありません。しかし、ただ原発反対と叫んでも何も変わらない。それを実現可能にするために、まず省エネを実現する必要があります。そして、創エネへ進むことが現実的なのです」と言う。
<住宅ローンがなく豊かな暮らし>
――実際に視察に行かれて、どのあたりが魅力的でしたか。日本との相違点は何ですか。
中谷哲郎代表取締役 第一印象で、とても強く感じたのは「豊かに暮らしている!」ということでした。その大きな要因は、父、母、祖父、祖母から受け継いだ家を、住宅ローンがなく、修理、メンテナンスをしながら使い続けているということです。
それに反して、日本の場合は、25~30年でほぼ使えなくなる家を新築で立て続けているのです。子どもは子どもで家を造り、大きなローンを抱えます。つくっては壊し、つくっては壊しの繰り返しの市場なのです。ドイツで暮らす人の表情は元気に、豊かに映りました。ドイツの街づくり、都市計画、住宅をヴォーバン住宅地から学び、日本に伝えようとする活動が始まりました。住宅にまつわるエネルギーの問題に関しても、この頃から興味を持ち始めたと言えます。
ドイツの街づくりですが、まずエネルギー、雇用を考えることから始まります。そのうえで、家をつくり、街をつくるのです。たとえば、ヴォーバン住宅地のメインストリートにある建物の多くは、1階は必ず路面店になっています。商店を誘致して地域の人が買い物をして、サービス産業を生む街づくりをしています。これらのサービス業で住宅地内に約600人の雇用もつくり出しました。交通計画も、歩きやすいように道路が設計されており、住宅地の中心部には車が入れないようになっているのです。
このとき、安全で持続可能なエネルギー社会をつくるには、まずはエネルギーを使わない社会づくりをして、その後にどんなエネルギーを使うのかを考える。いわゆる「省エネから創エネ」の順序も1つの重要な考え方であることを学びました。つまり、まずはバケツの水漏れを防ぐことも大事なわけです。
ドイツは社会全体のエネルギー消費量のうち、35~40%が建物由来の熱エネルギーであると言われています。冷暖房、空調、調理等で使われる熱量が多く、ここを何とかしなければ先に進めないわけです。日本は建物由来の熱エネルギーは20%を超える程度ですが、専門家の判断では、ほとんどの家が浪費していると言われています。
<プロフィール>
中谷 哲郎(なかたに・てつろう)
国学院大学卒業後、亀岡太郎取材班グループに入社。ベンチャー雑誌「月刊ビジネスチャンス」、「週刊ビル経営」、「週刊全国賃貸住宅新聞社」などで取材活動。リフォーム新聞社に異動後、2006年にリフォーム産業新聞、工務店新聞の取締役編集長に就任。12年に退社、(株)日本エネルギー機関(JENA)を設立、代表取締役に就任。
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