<収益に左右されない安定したビジネスモデルの確立を>
――ところで、博多座の自主制作は、地域のファン層をがっちりと掴めるうえ、経費が削減でき、さらに興行収益以外の収益も見込めるという、理想的な商品ですね。売るものがあるからこそ、積極的な戦略も可能です。
芦塚日出美社長(以下、芦塚) 自主制作以外でも、経費を抑える努力をすることは大切です。実際、他の企画に関しても、コストダウンの交渉を行なっています。昔は、先方が提案されるものをそのまま受け取っていたのですが、今は、こちらからも希望の金額を提示します。それが、興行収益で下振れしても黒字を出せるという基盤づくりに役立っています。
――博多座の経営そのものが、体質強化に向けて自主的な姿勢を取り始めた、という感がありますね。また、福岡市には文化の拠点となる施設が必要という認識も高まったのでしょう。福岡市が、博多座に対する財政支援を8年ぶりに復活させ、1億3,000万円を出資しました。社内努力は、外部からの期待の目で一層高まりますね。これに応えるには、社員の皆さんとの、より一層の意思統一が必要になることでしょう。
芦塚 おっしゃる通りです。4月に社内で、2013年度経営改革の取り組みを発表したのですが、それは「社員の皆様へのお願い」でもありました。まず、博多座の企業創業・経営理念の基本を伝えた後、12年度、中期経営戦略のもと、売上拡大と集積改善を目指し、努力を重ね、単年度黒字を達成した。しかし、まだ取り組み不十分な改善点が、数々残っていることを、明確に伝えました。
――初年度、計画通りに業績を上げたとしても、同じことを継続するだけではダメだということですか。
芦塚 12年度、数々の改革の取り組みを公表したのですが、その点に関しては、まだ実践が不十分だったのです。ですから「博多座の運営に関する協議会」の発足にあたって、経営理念に沿い、「良質な演劇を公演し、事業の拡大と安定的な利益の確保」を基本に、3つの経営改革に取り組んでいただくよう、お願いをしたのです。
第1に、「演劇選定・制作力の向上と事業売上の拡大」、第2に、「広報・営業戦略による売上拡大」、そして第3に、「長期安定的に、事業拡大と収益性を確保できる目標管理手法」の確立です。
――第3に掲げられたような「目標管理手法」が確立できれば、理想的ですね。
芦塚 ええ、結局12年度は、売上が下振れしても、興行原価や販売管理費を抑えることができていたので目標を達成することができました。事業目標管理の経営体力が実証されたということでもありますが、一時的なものではなかったのかとも思うのです。しかし、気分で演目を決められないのと同様に、気分で経営がアップダウンするような脆弱な体質ではいけません。売上が下振れしても確実な収益を確保できるような、そういうビジネスモデルをつくりたいのです。
――社員の方々の反応はいかがでしたか。
芦塚 すぐに動き出してくれました。うちの社員は、皆さん、よくやってくださいますよ。所帯が小さいので、風通しが良い、ということもありますね。組織の上層から発信したことが、全体に伝わりやすく、しかも皆さん、クリエイティブに、よく動いてくださいます。
――以前、ある社員の方にうかがったのですが、芦塚社長にはいろいろと相談しやすい、とおっしゃっていましたよ。また、何か問題が生じても、社長はまったく慌てず、いつの間にか事態が収まってしまっていると。
芦塚 いや、私は経営理念や事業計画を立てて遂行するだけですよ。後は社員の1人ひとりが、現場で良く働いてくれるのです。
――それでは、社員の皆さんに、芦塚社長がおっしゃった経営改革をもとに、どのように実践していくのかをうかがってみると、この単年度黒字化の全貌が見えてきそうですね。
芦塚 そうですね。ぜひ、社員の話を聞いてみてください。社員が良く動いてくれるからこそ、私も経営改革を実践することができるのですから。彼らの努力をぜひ多くの方に知っていただきたいと、私自身も思っていますよ。
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※このシリーズは、毎月不定期で博多座の各事業部を訪ね、現場での取り組みをご紹介していくものです。
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