「省エネ断熱改修普及のための日独連絡協議会」設立発起人であり、(株)日本エネルギー機関(JENA)代表取締役の中谷哲郎氏に聞いた。中谷氏は「福島原発事故(3.11)は私がこの事業を推進する大きな動機の1つです。原発はないに越したことはありません。しかし、ただ原発反対と叫んでも何も変わらない。それを実現可能にするために、まず省エネを実現する必要があります。そして、創エネへ進むことが現実的なのです」と言う。
<自分の家の偏差値が一目瞭然>
――我々は自分の家が浪費しているのかどうかを判断できません。今回、新しい概念として「エネルギーパス」の導入を提案されています。ご説明いただけますか。
中谷哲郎代表取締役(以下、中谷) エネルギーパスとは「家の燃費計算書」のこと、すなわち「家の偏差値」のことを言います。周囲の気象条件、周辺の建物の高さ、建物の設計、使用している建築材料、などから、この家が1年間で「冷房」、「暖房」、「換気」、「給湯」、「照明」にどれくらいのエネルギー量(kWh/m2/年)が必要かを算出して、年間の光熱費まではじき出すことができる仕組みです。
EUでは08年から27カ国すべての国で義務化されています。しかし、ドイツではEU政令に先駆け、97年(いわゆる第1次オイルショック)から燃費計算をしなければ確認申請が下りなくなりました。さらに、02年からは、家を借りるとき、売るとき、建てるときにエネルギーパスを求められたら表示しなければならないということが義務化されています。日本では、この「エネルギーパス」は一般社団法人日本エネルギーパス協会が唯一提供しています。
<地方自治体には産業創出のチャンス>
――自分の住んでいる家の偏差値が高いのか低いのか、どこを改善すれば偏差値が上がるのかわかるわけですね。良いですね。しかし、個人が個別に診断してもらうのも煩わしいと思いますが...。
中谷 ドイツでは、「エネルギーパス」がEU政令で義務づけられていますし、低所得者には、各自治体が「エネルギーパス」発行後、省エネのコンサルティングを実施しています。日本では、日本エネルギーパス協会がエネルギーパスを発行できる人材の養成を始めています。これまでに、約220人を発行者に認定できており、さらに発行者が増える予定です。
自治体ベースでも、エネルギーパス導入を前向きに検討していただけるところも増えてきております。
これは地方自治体にとって、とても良いことなのです。たとえば、私は山口県の周南市出身です。ベビーブームを境にして寂れてしまっています。地方の10万都市というのに共通した現象です。新しい産業を創出しようとしてもお金が市財政にありません。補助金を付けるにしても、今、無駄づかいしているところからシフトする以外に方法がありません。無駄づかいしているのはエネルギーです。これを削減して何とか他に回せないかと考えるわけです。
さまざまな点で日本に似ているドイツでは、成功例が数多くあるので期待できるわけです。
<プロフィール>
中谷 哲郎(なかたに・てつろう)
国学院大学卒業後、亀岡太郎取材班グループに入社。ベンチャー雑誌「月刊ビジネスチャンス」、「週刊ビル経営」、「週刊全国賃貸住宅新聞社」などで取材活動。リフォーム新聞社に異動後、2006年にリフォーム産業新聞、工務店新聞の取締役編集長に就任。12年に退社、(株)日本エネルギー機関(JENA)を設立、代表取締役に就任。
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