「省エネ断熱改修普及のための日独連絡協議会」設立発起人であり、(株)日本エネルギー機関(JENA)代表取締役の中谷哲郎氏に聞いた。中谷氏は「福島原発事故(3.11)は私がこの事業を推進する大きな動機の1つです。原発はないに越したことはありません。しかし、ただ原発反対と叫んでも何も変わらない。それを実現可能にするために、まず省エネを実現する必要があります。そして、創エネへ進むことが現実的なのです」と言う。
<健康改善にも大きな効果>
――先ほどのお話で、今日本には「省エネ断熱改修」市場がないことはわかりました。ところで、「省エネ断熱改修」と一般の「リフォーム」とはどこが違うのですか。
中谷哲郎代表取締役(以下、中谷) 一般リフォームとは、キッチンを変えたり、内装を模様替えしたり、外壁を塗り替えたりすることを言います。省エネ断熱改修とは、エネルギーを減らすために施すリフォームのことを言います。家で使うエネルギーとは冷暖房、給湯、照明、調理等です。もちろん、今でもリフォームの過程で結果的に省エネ断熱が施されることはあります。しかし、独立して市場が成立しているわけではありません。
「省エネ断熱改修」には大きく3つのメリットがあります。1つ目は「経済」的メリットです。低燃費になることで光熱費が大幅に安くなります。2つ目は「健康」的メリットです。日本の住宅の多くは、外気温に比例して室内の温度も上がったり、下がったりしますが、省エネ断熱改修後は、同じ室温をエアコンやストーブをあまり使うことなくキープすることができます。カビによるシックハウスや温度差によるヒートショックが起こらない健康に良い家になります。3つ目は「耐久」的メリットです。結露が原因で壁や躯体が腐らないので家が長持ちします。
<フローからストックへは既定路線>
――なるほど、「省エネ断熱改修」にするだけで、いろいろなことが改善されていくのですね。ところで、読者には中小の建設会社や工務店の経営者の方も多くいます。メッセージをいただけますか。
中谷 現時点で日本には700万戸の空き家があります。これを無視して、建て続けることは無意味で、ストックの資産価値は下がる一方です。少子高齢化社会で人口構成から考えても住宅産業政策を「フロー(新築)からストックへ」(住生活基本法)で大転換していかなければならないのは既定事実と言えます。そのことは、言い換えれば、ドイツを始めとしたヨーロッパ型社会へ緩やかに移行していくことを意味します。大手の住宅メーカーは新築一辺倒だった社内の売上体制を06年頃から徐々に変換、リフォームに焦点を合わせた、組織づくり、人材のシフトを始めています。
「省エネ断熱改修普及のための日独連絡協議会」設立記念パーティにおける国交省住宅局長や経産省資源エネルギー庁省エネルギー対策課長のスピーチがそのことを裏づけています。すでに、「低炭素社会に向けた住まいと住まい方の工程表」(国交省、経産省、環境省)をベースに動きが加速しています。2030年には、「ゼロエミッション住宅」(家庭で排出する温室効果ガス量と太陽光電発電装置などの創エネルギーで削減できる排出量をプラスマイナスゼロにする住宅)が義務化されます。12年には、国交省と経産省に、2つのゼロエネルギー住宅(住宅で使用するエネルギーと創エネするエネルギーがプラスマイナスゼロになる住宅)に対する補助制度が新設されました。
経営者の皆さんは、まず「省エネ断熱改修」を自社でどの程度行なっているのかを調査してみてください。新築とリフォームの売上がどのくらいの比率なのか。そのリフォームのなかで、「省エネ断熱改修」に関するものはどのくらいあるのかを調べてください。次に、今後、「省エネ断熱改修」のマーケットは急拡大することは明確に予測できます。自社でどの程度取り組まれるのかを戦略決定して下さい。最後に、取り組まれるのであれば、「省エネ断熱改修普及のための日独連絡協議会」にはそのノウハウがありますので、一緒に勉強、研究していければと思います。
――ありがとうございました。
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<プロフィール>
中谷 哲郎(なかたに・てつろう)
国学院大学卒業後、亀岡太郎取材班グループに入社。ベンチャー雑誌「月刊ビジネスチャンス」、「週刊ビル経営」、「週刊全国賃貸住宅新聞社」などで取材活動。リフォーム新聞社に異動後、2006年にリフォーム産業新聞、工務店新聞の取締役編集長に就任。12年に退社、(株)日本エネルギー機関(JENA)を設立、代表取締役に就任。
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