中盤を迎えた参院選。東京選挙区の激戦模様を追った。

　公示日の４日午前11時、新宿駅東口。民主党公認の鈴木寛候補の街宣だ。経産省キャリア官僚から大学教員に転じ、2001年の参院選で初当選。鳩山、菅両内閣で文科副大臣を務めた。
　民主党は同選挙区の現職２人のうち大河原雅子氏の公認を公示２日前の深夜、取り消した。同氏は７月１日に決起大会を開き、海江田万里代表が出席して挨拶したばかりだった。公認取り消しは、共倒れの危険性があるからだ。春ごろから水面下で候補者調整が行なわれ、「組織票を持つ大河原より、浮動票を見込める鈴木が有利」と囁かれていた。
　大河原氏は引かず、無所属で立候補した。６年前に108万票を獲得し、トップ当選した自負があった。
　「同情票が集まり、大河原の方が当選するのではないか」
　何度も選挙を経験した自民党関係者は予想する。
　「ポスターにもビラにも『民主党』の文字が入っている。刷り直しにはお金もかかるし、時間もかかる。事実上の選挙妨害としか思えない」
　大河原陣営は大慌てでポスターの『民主党』の部分にシールを貼って隠した。都内の選挙掲示板は１万4,000カ所。単純に考えて、手作業で１万4,000枚のポスターにシールを貼ったことになる。

　鈴木候補の第一声は冴えないものだった。
　「みなさんは鈴木さんが何をしているか知らないでしょうけど...」
　白眞勲参院議員はこう切り出した。応援演説は普通、候補者の実績を並べるものだ。これでは鈴木候補には目立った功績がないと言っているに等しい。
　候補者自身の演説も、大河原氏の公認撤回についての「言い訳」に終始。公認を絞ったが、禍根は残る。

　正午ごろの有楽町駅前では、日本維新の会の小倉淳候補、みんなの党の桐島ローランド候補が相次いで街頭演説。日本維新の会は、公示日とあって、石原慎太郎共同代表も参加。聴衆の数より警官の数の方が多いように見え、小倉候補はすっかり影がかすんでいた。

　みんなの党は、予定時刻に遅れて、桐島候補が登場した。同行しているのは松田公太参院議員。桐島氏とは10年以上の「飲み友達」だ。その関係で桐島氏を政界に誘ったのが松田議員である。みんなの党は、東京選挙区の現職、川田龍平副幹事長を比例代表に転出させ、選挙区に桐島候補を立てた。松田議員には、同選挙区の現有議席を守るという以外に、桐島氏を必ず当選させなければならない「責務」がある。その背景をみんなの党関係者はこう語る。
　「松田氏は渡辺喜美代表の側近というより、渡辺夫人のお気に入り。桐島氏が公認を得る時も、まず渡辺夫人のお墨付きをもらった。桐島氏はハンサムだから、渡辺夫人はひとめで気にいった。落選させたら、渡辺夫人から大目玉を喰う。だから松田氏は必死だ」
　松田議員は桐島氏以上に張り切っている。演説の代わりに２人で「トークショー」をしたり、斬新なアイデアはいかにも松田議員らしい。しかしこれが逆効果で...。「松田氏ばかりが目立っていて、桐島氏がさえない。桐島氏は言葉も明確ではなく、印象がぼんやりしている」との声が聞こえる。もう一つの「ネック」は、母親の桐島洋子氏がつきっきりで街宣に参加していることだ。「あれではマザコンのレッテルを貼られかねない」。有名な作家である母親の知名度を生かそうという作戦かもしれないが、懸念の声は小さくない。

　自民党の堅調ぶりは、集まる聴衆の人数にも表れていた。公示日は、池袋で2,200名、有楽町で1,800名が安倍晋三首相らの演説に聞き入った。
　ただし懸念もある。一般的にはさほどの関心を集めていないのではないかとの疑問が出ている。「３年前の参院選で、菅直人首相（当時）が同じ有楽町で消費税増税をぶち上げた。この時に集まった人の方が多い」と永田町関係者。05年や09年の衆院選の熱気には及ばず、一部の熱狂的な支持者を除くと、通行人がちょっと足を止めるだけ。すぐに立ち去る例が多い。

　一方、日々勢いを増すのが、脱原発の山本太郎候補（無所属）だ。山本候補は昨年12月の衆院選東京８区に出馬し、約７万票を獲得。「東京選挙区は60万票で当選する。タレントとして知名度もあり、８区で約７万票を獲得した山本氏には、高すぎるハードルではない」（永田町関係者）。自民党もいち早く、「山本氏は5位か6位に喰い込む」と予想しており、目が離せない。

　自民党がどれほどの優位を保持できるか、野党がどのくらい喰い込めるか。21日の投票日まで、熾烈な争いが繰り広げられている。

▼関連リンク
・参議院選挙区選出議員選挙候補者の氏名及び党派別の一覧（東京選挙区）（総務省）

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