子どもたちを犠牲にして何とも思わない大人たちが、この福岡には少なからずいるようだ。
<ブロンズ像や壁画も寄贈>
福岡女子大学の建て替えに伴い、2012年3月末に閉園した学校法人筑紫海学園 香椎幼稚園。設立から約40年続けられていた地域密着型の幼児教育は高い評価を受けており、運営法人が閉園を決めた際は、園児の保護者、同幼稚園の教職員、卒園生が中心となって存続運動を展開。賛同する6万人が署名する社会問題に発展した。閉園の方針を固守する運営法人側と、移転計画の見積もりまで試算し、存続が可能であると訴える保護者たち。争点の1つは、移転費用として蓄えられていた約2億円の資産だった。
資産の内訳は、09年3月31日の時点で、移転のために用意されていた『施設整備維持引当特定預金』が1億4,801万4,792円、『現金預金』が5,732万4,374円の合計2億533万9,166円。NET-IBは今回、福岡女子大のOBに配布された13年5月26日発行の記念誌「学校法人 筑紫海学園の軌跡」を入手した。
それによると、東日本大震災被災地への寄付1,000万円、ブロンズ像「MISERERE 命よ」2,100万円、壁画「凛として」1,050万円、福岡女子大の同窓会である筑紫海会に書類保管料2,000万円、福岡女子大への寄付1億300万円とある。ブロンズ像は福岡女子大のキャンパスに建立。壁画は新装の同大学エントランスホールに飾られる。東日本大震災被災地への寄付を除く1億5,450万円が福岡女子大に贈られたことになる。
この寄付を行なうため運営法人(筑紫海学園)は、幼稚園の閉園を決めた後の09年10月8日、法人の寄附行為を変更していた。法人解散時の残余財産の帰属者について、それまで「学校法人または教育の事業を行う公益法人」と定めていたものを、「教育の事業を行う者」に変更した。これは、福岡女子大が、学校法人でも公益法人でもない公立大学法人(独立行政法人)であったからである。運営法人の理事は全員福岡女子大の同窓生。呆れたことに運営法人の記念誌の記述には、保護者の反対運動やそれに連動した教職員の組合運動について、「辛く厳しい日々でした」などと、あたかも被害者のような物言いがあった。
残余財産は、同幼稚園が福岡女子大の敷地を賃借していたことなどから、いずれ移転となる際に用意されていた。原資には、保護者の納入金だけでなく、県や市からの助成金も含まれている。本来、子どものために使われるべき財産であり、今回の寄付は「私物化」との謗りを免れない。存続運動の結果、同幼稚園は、学校法人グリーンコープ香椎照葉幼稚園として、福岡市東区のアイランドシティに建てた新園舎で、地域に愛される幼児教育を続けている。嘆かわしい事実のなか、すべての子どものために立ち上がった大人たちによって、教育がなんとか守られたことが唯一の救いである。
▼関連リンク
・保護者に励ましの声~香椎幼稚園 維持存続運動
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