チェルノブイリ原発事故後、ベラルーシで放射性物質による健康被害を研究した医師バンダジェフスキー氏の講演会が7月12日、福岡市で開かれた(バンダジェフスキー講演プロジェクト主催、放射能防御プロジェクトなど共催)。約400人が参加した。
バンダジェフスキー氏は、ベラルーシ国内で最大の被害を受けたゴメリ州の州都にあるゴメリ医科大学の学長を務め、子どもたちの健康調査、動物実験、死亡者の解剖を通して放射性物質による健康被害について研究。現在はウクライナで活動している。講演では、汚染地での事例を示して、「さまざまな健康被害が起きている。放射性物質の危険を知ってもらいたい。放射性物質と妥協して生きることはできない。安全な量というものはない」と訴えた。
また、バンダジェフスキー氏は、心臓、腎臓、肝臓などの異常や、女性のホルモン異常や胎児への影響、血液異常などの調査結果を紹介。心臓では、体内の放射性セシウム137が多いほど心電図異常が見られ、放射性物質が心筋細胞のミトコンドリアを損傷すると考えられると述べた。
動物実験では、ゴールデンハムスターに家畜のエサとして許されているレベルの放射性物質(セシウム137)を含むカラスムギを与えたところ、胎児の40%以上に先天性異常が出現したと紹介。「事故から約25年がたち、農業が認められた土地でつくられた作物でも、健康被害を与えるファクターを持っている」と警鐘を鳴らした。
さらに同氏は、「放射性物質の人体への影響を考える際、重要なのはまず(人体が取り込んだ)放射線の量を測ることだ。原子力産業と密接な関係にある政府は、放射線量を厳密に測定することを望んでいないのではないか。被災地にいる人々はどれだけ放射性物質を取り込んだかわからず、体に起きた疾病が放射性物質の影響だと言うことができない。ベラルーシはその顕著な例だ。日本政府の態度は、旧ソ連の対応と似ている。ぜひ人体に蓄積した放射性物質の測定を実施してほしい」と指摘している。
同氏は、EUの援助を受けて、チェルノブイリ原発事故被災地の居住者の健康を守る総合的なプログラムとして、人体と食品の放射能測定、子ども全員の健康調査を実施していると紹介。「このプログラムを日本からぜひ見に来てほしい。ウクライナでやるよりも日本でやる方が意味がある。というのは、ウクライナではすでにたくさんの人が死んでしまったので、予防という意味では日本の方が意味があるからだ」と述べ、「(ベラルーシやウクライナと)同じことが日本のような文明国で起こらないでほしい」と呼びかけた。
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