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特別取材

大さんのシニア・リポート~第12回 高齢者に優しいダイシン百貨店探訪記(2)
特別取材
2013年7月19日 07:00

miso.jpg 特筆すべきは品ぞろえの豊富さだろう。2階の売り場には200種類を超す歯ブラシがズラリ。馬や山羊、豚の毛を使った天然毛歯ブラシはもとより、1925(大正14)年発売の缶入りの歯磨き粉もある。1階の食料品売り場には、180種類もの味噌が全国から集められている。50種類の豆腐、30種類の納豆、旬の野菜はもちろん、地方の特産品がところ狭しと棚に並ぶ。2階の日用品売り場にも50種類のトイレットペーパー、珍しい落とし(ちり)紙もある。3階のペットフード売り場は3,000種類の商品で棚が埋め尽くされている。

 極めつけは「死に筋商品」の展示だろう。他のスーパーや商店では決して扱わない「売れない商品」をダイシンでは積極的に置く。たとえば洗顔料の「うぐいすの粉」「米ぬか」、昔ながらのねずみ捕り器もある。仏壇も豊富で、木魚セットまである。衣料品や家具、自転車、文具、日曜大工用品と、高齢者の生活を意識した豊富な品ぞろえが店内を飾る。「刺身4切れから、豚肉40グラムから」と、「少量パックコーナー」と書かれたプレートの前に、寿司や刺身、総菜が豊富に並べられている。書籍売り場の隣に喫茶ルームを設け、休息の場を演出している。"日本で一番売れない書籍販売コーナー"と西山は謙遜するが、なに、自信に満ち溢れた仕掛けを駆使しているのは一目瞭然だ。

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 全店のアイテム数は18万点。この数字は、品数を誇る東急ハンズ渋谷店の16万5,000点(2009年調べ)よりも多い。「昔からこの商品しか使わないのよ」と客に言われれば、仕入れる。個人の客の要望を受け入れていくうちに品数が増えた。「(要望があれば)1個でも置く」というのがダイシンのコンセプトである。「ダイシンには欲しい商品が必ずある」という安心感、信頼感がアイテム数を急増させた。はたから見れば"個性的な(死に筋)商品"がダイシン百貨店を救ったのである。

 それまでのチェーン店は、商品単価を抑えるために本部で一括大量仕入れで各店舗に流した。しかし、同じような商品が各店に並び、最近のようにモノが売れなくなる時代には、逆に商品そのものの魅力を喪失させた。多様化した消費者にいかに対応するか。
 多様化した消費者というが、高齢者に関しては、実はそれほど多様化していないのではないか。使い勝手の良いもの、懐かしく思い出されるもの(味)、手になじむものに回帰するのではないかと私は思う。だから"死に筋商品"が売れることにつながるのだ。高齢者にとってダイシン百貨店そのものが"懐かしい商品"なのではないか。その商品を懐かしい顔の店員が心を込めて売る。そこに来れば懐かしい仲間に会え、話が弾み、楽しい時間を過ごすことができる。ダイシン百貨店が「高齢者の居場所」といわれる所以がここにある。その意味では、超高齢化社会にあって、「時代の最先端」を行く百貨店といえなくもない。

 西山は「住んでよかった街づくり」を提案する。大森山王地区に住む誰でもが幸福であり、住んでよかったと実感できるコミュニティづくりを目指す。ダイシン百貨店だけの利益に固執して一方的に物を売るだけではなく、「コト(イベントや企画モノ)」を提供する。「山王祭」(旧ダイシン夏祭り)もそうだ。ダイシンを地域の中心拠点としての機能を持たせることで、将来的には公共サービスや介護・医療のサービスまでをつかさどるという「総合的なインフラ」を提供しようという計画を持つ。

daisin.jpg 「高齢者に優しいダイシン百貨店」というキャッチコピーに間違いはない。ただし、高齢者=生活弱者、余計な出費を極力抑える客層とはとらえない。ダイシンには確かに100グラム78円の豚小間切れもあるが、100グラム2,000円の神戸牛も置く。衣料売り場には50万円もするカシミヤコートも用意され、コンスタントに売れている。

 古参従業員の商品知識は半端ではない。だから高齢者は購入時までじっくりと商品の説明を求める。販売効率を最優先させる一般のスーパーやコンビニではご法度だろう。ダイシンでは普通にみられる光景だ。取材中にも、数人の客(中高年者)が、取材する私を案内する広報担当の女性に対して、商品の説明と商品の有無について聞いてくる。まるで私の存在が見えないように、である。客にとってダイシン百貨店は"自分専用の店"なのだ。
 「ダイシンバス」、「ダイシン出前弁当」、「しあわせ配達便」、「足湯」、テナント無用、さまざまなイベントなど、「電気、ガス、水道、ダイシン」を地域のインフラにするべくなされた西山の孤軍奮闘、そして再建までの葛藤は次回にて報告する。

(つづく)

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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