最近、「縄文」とか「共生」という言葉をよく目、耳にする。政治家の発言にも、経済学者の発言にも、美術評論家の発言にも、建築家の発言にも出て来る。縄文時代は5千年前から4千年前まで約千年続き、戦争がなかったと言われている。
著者の池田清彦氏は生物学者で、現在、早稲田大学国際教養学部教授である。テレビ、新聞、雑誌に登場することが多いのでご存知の読者も多いと思う。池田氏はまさに自然界と人間との「共生」を語るには最も相応しい学者の1人だ。しかし、本書では、自然界の枠を超えて、経済、政治、社会一般についても語っている。
本書は、第1章「生物学からヒトを見れば」~「人間の家族、動物の家族」~「ルールを守れば幸せになる権利があるか」~「生物の世界に会社はない」~第5章「死ぬまでにどんなふうに生きるのが幸せか」で構成されている。まるで、講演録のように気軽に読めるのがよい。
「エネルギーの分布と、エネルギーの量と、エネルギーの調達が、すべての世界戦略に関係していて、この世界はみんな、結局エネルギーによって決められている。自国にエネルギーがないのに戦争やったって、負けるに決まっている。安倍晋三が勢い込んで国防軍とか憲法改正と言っているけれども、それはエネルギーを自給できるようになってから言ってくれ」(第2章)と、歯に衣を着せない発言も多い。
若者にグローバリゼーションを語る部分は、ズバリ直球で面白い。「グローバリズムというのは、この世の最終権力を国民国家から多国籍企業に委譲しようという話だ。多国籍企業というのは、どうしたって一番安い人を雇いたい。日本だと高いから、日本からどこかに移転してしまう。日本の若い人たちはそれで職がなくなる。それでも働こうと思ったら、どうしても賃金は安くならざるを得ない」、「昔は、会社が運命共同体みたいで、会社が儲かれば、そこにいる人も、ぶらさがっている人もみな給料がよくなって儲かった。今は、会社が儲けるためにはリストラして正社員を削減し利益を出さざるを得ない」(第3章)
このことは、今年4月に希望の会社に入社できた若者にも、できなかった若者にも、将来共通して起こる問題である。すでに、若者の人生の勝負は就職の成功、不成功で終わりではなくなっているのだ。
今でこそ、「追い出し部屋」は新聞一面を飾るニュースになっているが、近未来では当たり前の話なので、ニュースにはならない。仮に、アベノミクスで一時的に景気が上向き、雇用が増えても、増えるのはダメになったらいつでも切れる非正規労働者ばかりということになる。著者も言っているように、このままグローバリゼーションが続けば、日本に拘っていると、人口の1割か2割ぐらいしか正社員にはなれない。いまさら、鎖国はできないので、新しい抜本的な解決策を探る必要がある。
現在、「縄文」とか「共生」という言葉が話題になるのは、人間が行き着くとこまで来てしまって、現在のシステムではまったく機能しなくなり、立ち往生しているからにほかならない。ここは、生き物や自然界全体の智慧を見直し、謙虚に学んでみることも大切だ。
<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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