＜安保議論のなかった参院選＞
21日、参議院選挙の投票が行なわれた。結果は予想通り、自民党の圧勝に終わった。選挙期間中、安倍政権の経済政策「アベノミクス」への評価、原発再稼働の是非、憲法改正問題などを中心に各党が主張を展開したが、国家の基本である安全保障問題が選挙の争点にならなかったのは非常に残念である。なぜ、中国の軍拡の脅威、尖閣諸島に対する中国の攻勢、北朝鮮の核・ミサイル問題（拉致事件も含む）を取り上げないのか。
選挙期間中の７月９日、「平成25年度版防衛白書」が公表された。今年度の白書では、国力を増す中国を意識し、日米同盟や日本独自の防衛力の強化を訴えているのが特徴だ。従来の曖昧で、遠慮がちな表現から、尖閣諸島（沖縄県石垣市）の領有権主張を強める中国に対し、「先頭に立って領土、領海、領空を守る」と宣言した安倍晋三首相の強い意向が反映しており、軍備増強と海洋進出を進める中国への警戒感が前面にでた内容となっている。
政治家諸氏は今年度の防衛白書に限らず、過去に出された防衛白書を１度でも目を通したことがあるのだろうか。多分ないだろう。なぜなら衆参の議員会館の事務所には、毎年、防衛省から防衛白書が届けられるが、大多数の政治家の事務所では、他の書類と混じって、１度も目を通すことなくゴミと化しているケースが多いからだ。このことは政治家自らが「平和ボケ化」している証拠だとも言える。参議院選挙は終わった。今後３年間、国政選挙はないだろう。この間に、政治家諸氏は日本の安全保障問題に真剣に向き合ってもらいたい。
＜核の抑止効果を理解していた首相＞
佐藤栄作首相が昭和40（1965）年１月、首相として初訪米した際のマクナマラ国防長官との会談で、中国と戦争になった場合には、「米国が直ちに核による報復を行なうことを期待している」と発言し、先制使用も含めた核による即時報復を要請していたことが、平成20（2008）年12月に外務省が公開した外交文書によって明らかになった。佐藤首相がマクナマラ長官との会談の前日に行なったジョンソン大統領との首脳会談で「核の傘」の保証を求めていたことは、以前から明らかになっていた。
公開された外交文書によって、戦後歴代首相のなかで、日本が核武装することに対する相手国の懸念を逆利用した瀬戸際外交を展開できる数少ない政治家であったことをさらに印象付ける格好となった。佐藤首相の核武装カードによる瀬戸際外交の背景にあるのは、マクナマラ国防長官との会談を行なう３カ月前に成功した中国の核実験が影響していると言われている。外交文書の公開で先制核使用まで念頭に置いていたことが新たにわかったことは、佐藤首相が日本の安全保障政策を考えるうえで、核による抑止効果の必要性を十分に認識していたリーダーの１人であったことは間違いないだろう。
＜プロフィール＞
濱口 和久 （はまぐち かずひさ）
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年３月に竹島に本籍を移す。今年３月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居（おもしろい）』（東京コラボ）、『祖国を誇りに思う心』（ハーベスト出版）などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。５月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか？」（たちばな出版、現在第４版）が発売された。 公式HPはコチラ。
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