<政治家は核武装の議論から逃げるな>
ひるがえって平成18(2006)年10月、中川昭一自民党政調会長の「核をめぐる議論は必要だ」という発言を受けて、与野党から批判の嵐が巻き起こった。本来ならば北朝鮮の核・ミサイル実験を受けて、当時の与党の政策責任者として、安全保障をめぐるタブーなき議論を呼びかけることは、なんら問題はなかったはずである。日本人の生命と財産を守り、あらゆる安全保障上の危機に対処しなければならない政治家が核武装の議論をするのは当然のことであり、むしろ何も議論しない方が不自然である。佐藤首相や中川政調会長のスタンスこそが、真の政治家の姿と言えるのではないか。
昭和34(1969)年3月の国会で、岸信介首相も「政策として核兵器は保有しないが、憲法としては自衛のための最小限の核兵器を持つことは差し支えない」と答弁している。その後も「自衛上の小型の核兵器保有」は違憲ではないとの日本政府の立場は今も変わっていない。自民党の加藤紘一氏(現在は引退)などは、中川政調会長の発言を受けて、「国際的に大きな波紋を呼ぶ。世界のなかで最も核兵器を保有してほしくないと思われている国は日本だ。自衛隊にはかなりの力がある。そこに核を持つ構想があるとなると、北朝鮮の核保有よりショッキングなことになる」と語ったが、日本人の生命と安全を守るべき政治家の発想とは思えない発言である。とくに「北朝鮮の核保有よりショッキングなことになる」などという発言は、防衛庁長官を2度も経験者した政治家としてはあまりにもお粗末すぎる認識であった。
<核こそ最大の抑止力>
戦後の日本は米国の核の傘と日米安全保障条約によって守られてきた。しかし、自分の国は自らの力で守るという体制を構築するうえでは、核武装は必要である。北朝鮮の核・ミサイルの脅威や中国の動向に対しては、最大の抑止力となるからだ。
日本自らが当面の間、核武装する意思がないのであれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟の国々(ベルギー・イタリア・オランダ・ドイツ)が米国と締結しているニュークリアシェアリング(常時米軍の核搭載艦船に乗務して、自国が核攻撃を受けた場合は、直ちに米軍から核使用の指揮権の譲渡を受けることのできる仕組み)を米国との間で締結することも、日本は1つの選択肢として研究するべきである。安倍晋三政権は、日本の安全保障政策を考えるうえで、核武装議論から逃げるべきではないと、私は思う。
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第4版)が発売された。 公式HPはコチラ。
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