参議院選挙は予想通り自民党圧勝で終わった。3.11以降、あれほど盛り上がった「原発廃止」は大きな争点にはならなかった。翌日の新聞各紙には「原発回帰へ拍車」という活字が躍った。投票日の時点で、マジョリティが「原発推進」でなかったことは明白だったと思う。しかし、堂々と原発再稼働、推進を掲げる自民党が圧勝したのだ。それは何故か?この疑問に答えているのが本書である。
平氏は、京大工学部、米国UCLA大学院卒業後、ラジオDJ、大学講師、政策シンクタンクと幅広い分野で活躍。2009年から、民主党衆議院議員を1期務め、速やかな原発ゼロこそが成長戦略だとする「禁原発」政策を一貫として主張。2012年6月16日(土)に官邸で原発再稼働が決定された2日後の18日(月)に民主党を離党。今回の参議院選挙では、みんなの党比例区から出馬して落選している。
「原子力ムラ」という言葉がある。原子力を推進する電力会社、プラントメーカー、ゼネコンなどの業界団体、経産省をはじめとする監督官庁、さらに原子力を推進する研究者やマスコミなどを括った俗称である。ではこのムラの住人はどのくらいいるのか。原子力産業に関わる人口に平均世帯人員を掛けた数字は70万人である。これは、日本の全人口の0.6%に過ぎない。この少数の利益集団が、官僚や政治家を上手く使いこなして原発行政を推進、残りの99.4%の命がもてあそばれている。
著者は政治家の経験から、「どうしてそうなってしまっているのか?」という理由を2つ挙げている。1つ目は、根強い官僚依存体質のため、議会制民主主義の国であるにも拘わらず、政治が多数派の声にはなびくことがないからである。2つ目は、日本の多数派は、もの言わぬ多数派(サイレント・マジョリティ)でその多くは自分の意見を否定し、敢えて少数派の意見に消極的に賛成してしまうことさえあるからである。
「原発を止めれば、電力の値段は高騰し、しかも足りなくなって、経済が立ち行かなくなる」と喧伝されれば、その内容を吟味することなく「仕方がない」と思ってしまうのである。
原発を所管する経産省は電気消費者よりも電気事業者を優先する。教育を所管する文科省は学生より学校経営者や教職員を優先する。医療を所管する厚労省は患者のためより病院経営者や医薬品業界を優先する。農業を主管とする農水省は専業農家より農協を優先する。全ては官僚の天下り先確保のためだ。
後者(例:電気事業者)より前者(例:電気消費者)の方が圧倒的に多数だ。しかし、少数派が、官僚をスタッフとする事務局を駆使して政治を動かす(情報操作して世論の誘導も図る)ことに長けているのである。後者は、多数派であるにもかかわらず、しっかりとした事務局がないので政治家にはその声が届かない。これが、「原発」に限らず、「増税」、「年金」、「医療」、「教育」等の全てにおいて、少数派の事務局情報が、いつのまにか多数派の意見を形成してしまう理由である。
しかし、平氏は諦めていない。無自覚でもの言わぬ多数派(サイレント・マジョリティ)が目覚めれば、事態はすぐにでも変わるからだ。「目覚めた時が吉日」とも言えるのである。
今回の参議院選挙の結果を、我々1人1人が真摯に政治に向き合う「絶好の機会」にしていきたいものである。
<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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