<日本国憲法を否定していた社会党と共産党>
今回の参院選でも、社民党と共産党は日本国憲法の改正について「NO」という主張を繰り返した。ところが、戦後間もない頃の両党の日本国憲法に対するスタンスは、現在とは180度違うものだった。今でこそ、社民党(旧社会党)や共産党は憲法改正反対の「護憲の党」のイメージがあるが、昭和30(1955)年の左右統一前の左派社会党綱領には、政権を握った後の「憲法改正」と、新聞、出版、放送などを対象とする言論統制が明記されていた。
左右統一後の社会党は昭和60年まで、党の綱領的文書とされていた「日本における社会主義への道」のなかで、「日本国憲法は権力を把握して変革を完遂する全過程において社会の規範たることはできない」と述べ、「護憲」は、それまでの暫定的なものと位置付けていた。つまり、社会党は理想的な社会主義憲法の制定をめざし、この「資本主義憲法」に反対していたのである。
共産党の場合は、憲法制定議会で日本国憲法に反対した唯一の政党であった。施行されてから今日まで、1度たりとも日本国憲法に賛成を表明していない。共産党が強く主張しているのは、「憲法改悪阻止」である。共産党は昭和21(1946)年6月28日に「日本人民共和国憲法(草案)」を決定し、天皇制を廃止し、自前の軍隊を持つ人民共和国国家を樹立することを目指していたのである。
■昭和21年6月25日、政府から提案された日本国憲法第9条の案文
国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。
この条項の提案理由について吉田茂総理が衆議院本会議で説明を終えた後、当時、国会で社会党・共産党がどのような質疑を行なったかを紹介したい。
社会党の鈴木義男氏は6月26日の質疑のなかで「戦争の抛棄(ほうき)は、国際法に認められておりますところの自衛権の存在までも抹殺するものではないことはもちろんであります」と述べたあと、次のような意見を述べている。
「局外中立、ことに永世局外中立というものは、前世紀の存在でありまして、今日の国際社会にこれを持ち出すことはアナクロニズムであります。今日は世界各国団結の力によって安全保障の途を得るほかないことは世界の常識であります。(国連)加盟国は軍事基地提供の義務があります代わりに、ひとたび不当にその安全が脅かされた場合には、他の60数カ国の全部の加盟国が一致してこれを防ぐ義務があるのです。換言すれば、その安全を保障せよと求める権利があるのでありますから、我々は、消極的孤立、中立政策等を考(こうが)うべきでなくして、あくまでも積極的な平和機構への参加政策をとるべきであると信ずるものであります」
鈴木義男氏は、東京大学卒業後、英米仏伊へ留学し、帰国してから東北大学、法政大学で行政法担当の教授を歴任した学者出身の代議士で、このとき、社会党の中央執行委員の地位にあった。社会党の幹部が今から半世紀も前に、中立政策はアナクロ(時代錯誤)であり、そのような政策をとるべきではないと断言しているのである。
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第4版)が発売された。 公式HPはコチラ。
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