<「安倍自民、大勝」(朝日新聞)、「自公過半数 ねじれ解消」(読売)>
参院選の結果をマスコミはそう報じ、衆参のねじれ解消によって「決められる政治」が始まると書いた。
6年前、第1次安倍内閣が参院選に大敗して与野党逆転して以来、野党多数の参院で首相や大臣の問責決議が可決され、政権運営に行き詰まった首相が1年ごとに交代する短命政権が続いてきた。そういう面では、今回の自公の参院過半数回復で政権は安定し、不測の事態でもない限り、安倍首相は衆院の任期満了と参院改選が重なる3年後まで、選挙で引きずり降ろされる可能性は小さくなった。
しかし、新聞が歓迎する「決められる政治」とは、原発再稼働でも、消費税増税でも、生活保護費引き下げでも、自公政権の決めた政策・法案がほぼ自動的に国会で成立し、実施される政治が始まるということだ。必ずしも国民にとって歓迎できる政治状況とは言えない。
自民党内には「長期政権時代」を期待する声が強まっている。
「次の国政選挙は、おそらく3年後の衆参ダブルになる。だが、民主党は自滅し、第3極も退潮ムードで、短期間で自民党の脅威になる政治勢力が現れるとは考えにくい。次の総選挙は300議席は無理にしても、過半数の維持は難しくない。民主党が結党して政権を取るまで12年かかったことを考えると、少なくとも今後10年間くらいは政権交代はなく、自民党政権の時代が続くのではないか」(自民党中堅議員)。
果たしてそうだろうか。
たしかに、多くの選挙区で自民党候補がダントツのトップ当選し、議席の数では過半数の支持を得た。だが、決して「1党独裁」と言われた頃の支持基盤や国民の支持が戻ったわけではない。
自民党の得票総数は選挙区が約2,270万票、有権者全体(約1億415万人)の2割の支持しかない。比例代表はさらに少ない約1,850票で、「小泉ブーム」と呼ばれた2001年の参院選の得票(比例は約2,100万票)に遠くおよばない。
世論調査で内閣支持率が60%前後と高く、自民党の政党支持率も30%台あることを考えると、参院選の得票は少なすぎると言っていい。むしろ、高く見える支持率は「消極的支持」であり、自民党の基礎票は長期低落傾向からほとんど回復していないと見るべきだろう。今回の勝利は、あくまで投票率低下と野党乱立で"漁夫の利"を得たものに過ぎない。
しかも、その支持さえ、今後は下がる要素しかない。
何より、来年4月に消費税が8%に引き上げられ、15年10月からは10%へと2回も引き上げられる。生活保護費など社会保障の切り捨てもスケジュールに入っている。国民には負担増が続く半面、自民党は地方で四国新幹線や山陰新幹線など公共事業バラマキを公約している。ちょうど3年後の"ダブル選挙"の頃には、増税で国民の不満が充満しているタイミングだ。
安倍政権が「国民の圧倒的な支持を得た」と勘違いして公約通りの政治を進めれば、今度こそ、有権者の8割に達する反自民のサイレントマジョリティの怒りに火をつけることになるはずだ。
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