別府市は「源泉数、湧出量ともに日本一の温泉地」として、全国にその名を馳せている。その別府の街並みを遠望すれば、硫黄の匂いとともに、無数の湯煙が立ち上る光景が目に飛び込んでくる。ところで、そこに数条のどす黒い煙が立ち上っていることは、あまり知られていない。発煙源は浜田博・別府市長。取り巻きから「天才」「大だぬき」と称される浜田市長は、その老獪さをもって幾多の厳しい追求の手を掻い潜り、あるいはすり抜け、いまだその火種を公衆の面前には晒していない。浜田市長のもと、別府市政で何か繰り広げられてきたのか。黒い煙に関する事実関係を追う。
＜ゆめタウン誘致の裏で利権を貪る＞
浜田博氏は元教員。村山富市・元首相を送り出した日教組の支援を得て、1979年に別府市議（２期８年）に初当選。87年に大分県議（４期16年）に転身し、2003年４月には自民党系別府市議団の支援も取り付け、別府市長に就任した。以来出なおし市長選を含む４選を重ね、10年目にある。現在、年々減少する観光客をつなぎとめるため、「住んでよし 訪れてよし アジアをむすぶ ONSEN都市」をスローガンに掲げ、自然環境型ONSENツーリズムのまちづくりを進めている。
浜田氏は市長就任後、別府湾近く、国道10号線沿いの中心市街地内にある楠港（市有埋立地、6,000坪）への商業施設誘致計画を明らかにする。同市が公募した事業計画を審査するため設置した誘致企業選定委員会は、04年８月、商業施設「ゆめタウン」を全国展開する㈱イズミ（本社・広島市南区）を選定した。この選定をめぐり、「ゆめタウン誘致ありきだ」として、住民による誘致反対運動が激化。７万人以上の署名が集まった。これを受けた市長は誘致を凍結、計画に関する議案提出は見送りを余儀なくされる。
凍結から約１年後の06年１月、市長は新年互礼会の席上、誘致凍結の解除を宣言。再び反対運動が巻き起こる。市議会でも誘致の是非をめぐる議論が紛糾、住民投票の実施を求める声が高まった。市長はいったん住民投票受け入れを示唆したが、直後に翻し、市長辞職を表明。誘致の是非を問う出直し市長選挙に打って出た。
06年５月に行なわれた出直し選挙には、市長のほか、誘致反対を唱える別府市議（当時）の長野恭紘氏が出馬。選挙の結果、浜田氏が３万7,000票を獲得。1万2,000票の大差で再選を果たす。再選直後の６月、市長は「誘致に対する民意が得られた」として、市長権限を行使、イズミと誘致に関する立地協定を締結する。総事業費は76億円。１期工事着工から13カ月後の07年11月、売上120億円、雇用1,100人（計画段階）を掲げたゆめタウンが開業する。なお、２期工事として、シネマコンプレックス（同時に複数の映画を上映できる映画館）建設、立体舗道整備、100円バスの運行も協定に盛り込まれていたが、この件で確約書まで提出した同社は、資金不足を理由に履行していない。
ゆめタウン誘致は、それ自体別府市政を揺るがす事件だったが、その裏で浜田市政に大きな疑惑を投げかけることになる企みが進行していた。市長後援会の幹部とされ、当時会社経営者だった水永弘行氏という人物が首謀者だ。
水永氏は、ゆめタウン誘致の裏で、ある下請業者に出向き、出入り業者の選定を「市長から一任されている」と説明。ゆめタウンでの契約を斡旋する見返りとして、300万円を受け取っていた。水永氏と下請業者が交わした覚書が残されており、言い逃れのできない事実だ。下請業者の07年７月６日付けの日誌には、「市長から『この水永は絶対信用できる男でまちがいない』と超スイセン」との記述がある。また、その場で水永氏が市長に電話をしたとの証言も残っている。一連の疑惑について市長は「そのような人物をゆめタウン側に紹介した事実はない」として関与を否定している。
08年２月20日、ゆめタウン別府責任者が確約書を持って市長応接室を訪ねる。その際、水永氏が同席。席上、水永氏が「イズミは約束を守らない。殺してやるぞ」と怒鳴った。「恐怖を覚えた」など、複数の職員の証言も残されている。
この件について、市長は「確約書は自分がイズミ本社に出向いて締結した」と主張。水永氏の訪問記録については、元市総務部長だった友永哲男副市長は「今の状況でははっきりわからない」と述べている。
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