<市長選の報復として入札指名外し>
ここまで、市長後援会幹部を名乗る水永氏の話を中心に追ってみた。水永氏が煙なら、その火元は誰か。水永氏と市長の関与の有無を問うことが、一連の問題の本質だと言える。両氏の関係性をめぐっては、それを裏付けるさまざまな証言、情報が残されている。別府市議会でも再三追求されてきた。
ただ、市長があらゆる場面で一貫して関与否定を主張。その間、市長選があり、結果的に詰め切れず、その多くがウヤムヤのまま現在に至っている。そのなかで、市長が直接関与した疑惑として、現在裁判で係争中の案件がある。市長選挙の報復としての市入札からの指名外しという問題だ。
話は、2006年のゆめタウン誘致をめぐる出直し市長選の時期に戻る。誘致反対を掲げ市長選に出馬した長野氏の親族は、市内で建設業を営んでいた。地場企業として土木、建築、舗装(別府市内業者では唯一のすべてAランク業者)を手がける長幸建設(株)。同社はそれまで毎年度指名を受けていたが、長野氏が市長選に出馬する情報が流れて以降、市発注案件の入札指名から外されるようになる。その後、市議会で追求を受け、同社は指名に復帰。事態はいったん収束する。その後、07年4月の市長選。浜田市長の再選を経て、11年4月、任期満了にともなう市長選に長野氏が再度出馬を表明する。選挙告示直前の4月12日、複数の建設関連団体主催の会合「安心・安全のまちづくり 浜田市長と語る会」が市内で開かれた。席上、浜田市長はこう発言した。
「8年前(市長に)就任したとき、私は選挙(を応援)してくれた人、しない人も平等に、協会の関係の皆様順番に、今まで指名に入っていない人から順番に公平に(入札を)入れさせていただきました。それが公正・公平だと思っていました。その時点ではそれで良かったと思います。しかし、今回2度にわたって(長野氏と長幸建設が)私にドスを突きつけてきたのです。別府市の仕事はいらないということでしょう。市長には頼らない、これは考えなければいけない」(※カッコ内は記者補足)。
事実上の一騎打ちとなった選挙の結果、1,420票差で浜田市長が再び勝利を果たす。選挙後、長幸建設は、建築工事のみ入札指名から外される。同社の建築工事の経審の総合評定値(P点)は844点だったが、同社が参加を表明する入札案件のみ、「P点850点以上」という要件が設定されるようになったからだ。
この指名外し問題は市議会でも取り上げられる。「過去の受注実績に照らして異常な指名判断だ」という市議の追求に対し、市当局は「同社には問題もなく行政指導などしたこともない」としつつも、入札参加資格審査委員会の守秘義務を盾に、「総合的な判断で決定した」との答弁に終始した。公共工事の入札及び契約の適正化の推進に関する法律に基づく指針には、「指名されなかった者がその理由を発注者側に求めた場合には、その理由を説明しなければならない」としている。これについて、市担当者は「認識している」とのみ答弁した。
指名外しをめぐっては、01年3月、理由もなく指名外しされたとして、徳島県神山町内の建設業者が同町に対し、約7,000万円の損害賠償請求を徳島地方裁判所に求めた例がある。同地裁は02年4月、同町長の指名外しは裁量権の逸脱などとして、同町に約1,080万円の支払いを命令。同町は国家賠償法に基づき、町長から同額の賠償金の支払いを受けている。長幸建設は同年11月、前例に照らし、「市長選挙の報復としての指名外しにより損害を被ったとして、市に対し515万円の損賠賠償請求を大分地方裁判所に提訴。現在係争中で、市側は真っ向から争う構えを見せている。13年8月下旬には市長の証人尋問が控えており、市長の責任について司法がどのような判断を下すか、注目される。
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