「千鳥饅頭」、「チロリアン」など福岡を代表するお菓子を手がける"千鳥屋"。土産菓子屋として一時代を築いたが、親族たちは遺産相続のトラブルを抱え、それぞれの道に進んだ。時は流れ、世代交代により若返りが進むそれぞれの"千鳥屋"の問題を追った。
<バラバラのブランド戦略>
"お菓子"を取り巻く市場環境は変化し、年々厳しさを増している。人間関係の変化からか、お中元やお歳暮などを送る習慣や、手土産を持って誰かの元を訪ねるという習慣は昔と比べ希薄になった。また、コンビニ各社はスイーツの開発・販売に力を注ぎ、年々お菓子のレベルが上がっている。
"千鳥屋"各社の経営陣は、ツユ氏の子から孫の世代に移り変わってきている。
企業は、経営者の考え一つで、商品の味やイメージ、店づくりからサービスまでさまざまなものに差が出てくる可能性がある。
前述の通り、一部店舗では、別法人の"千鳥屋"が点在するかたちとなっており、近い店舗では、店舗同士に影響が出てきてしまう。「千鳥饅頭」「チロリアン」という同じ商品を抱えているが、「花千鳥」のように一部商品には大きな差が出てきている。近い店舗同士では、ある日鋭い消費者がその違いに気づくかもしれない。
また、菓子業界の厳しさを考慮すれば、各社ともに「千鳥饅頭」「チロリアン」に頼りきりになるのではなく、刻々と変化する消費者ニーズに対応し、これらに次ぐヒット商品を生み出すことが課題でもある。しかし、各社がそれぞれにつくったところで、近隣に別法人店舗が入り乱れる状態では、商品がある店舗とない店舗とで差が出てしまう。消費者にとってみれば、どこも"千鳥屋"であり、商品があったりなかったりするという事態は、混乱を生むことにつながっていくだろう。この状態は、どこか1社だけの問題ではなく、4社の"千鳥屋"すべてのブランド力の低下につながっていくのではないだろうか。
現在、福岡地区では、「チロリアン」のCMを見る機会もめっきり減少したように思われる。今はまだ福岡で相応の知名度を誇っている「チロリアン」、「千鳥饅頭」だが、客層も高齢化してきており、若い世代へのアプローチが不足気味。厳しい菓子業界にあって、いくら老舗の菓子ブランドといえども、10年も20年も知名度を保てるかわからないのが現実である。
4社ともに、"千鳥屋"のブランド力が落ちてしまうことにメリットはない。それぞれが好き勝手に事業を行なうことにより、共倒れにつながっていく可能性も否定できない。ある程度の味の取り決めや、4社での共同仕入れなど、バラバラとなった4社が手を組んで協力した方がいいこともあるだろう。
息子たちにそれぞれ事業を託した母の願いは、決して我が息子兄弟を離散させるためのものではなかったはずである。同じ"千鳥屋"という看板を掲げる以上、ある程度足並みをそろえる必要はあるのではないだろうか。"千鳥屋"としてブランドを守ること、そのための取り組みを行なわなければ、いずれそれぞれで首を絞め合うことにもなるかもしれない。各々 "千鳥屋"を守りたいと思いがあるならば、我が事だけではいられない時期に来ているのではないか。
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