<リーダーに必要な資質を鍛える>
日本のリーダーたちは欧米に比べ、議論の力が強くないと言われる。グローバル社会を戦うリーダーたちに必要な交渉力や分析力、合意形成能力を早い段階で鍛えるのに、ディベートは有効だ。次世代を育てる教育や企業などのリーダー育成に、有意義な手段なのではないか。もっと注目されていい。
ディベート選手権のような競技ディベートでは、自分の意見とは関係なく、肯定側と否定側の双方の立場に立って試合をすることになる。本当は、「首相公選制」に肯定的な意見を持っていても、否定側で戦わなければならないこともある。このことは、会議などで議論をする際、相手をやり込める「議論のための議論」をするのではなく、さらに良いものをつくり上げるためのリーダーとしての広い視野を持つことにつながる。自分の利害関係、立場をいったん離れ、相手の立場に立って、物事を考える資質を鍛えることになる。
激しい議論を繰り広げるなかでも、自分の利害関係をいったん離れ、「相手の立場」に立てるかどうかというのは、交渉力=問題解決力、合意形成能力につながる。たとえば、TPPの交渉の場や中国との尖閣諸島問題において外交の議論をする際、相対するばかりではなく、いったん自己の利害から離れて考えられるかどうかは重要だろう。
<政治とも関連>
今回のディベート甲子園で「首相公選制は是か非か」というテーマが選ばれたように、ディベートは政治とも関連性が深い。会議などの議論は、「それぞれが意見を持つ」→「意見をぶつけ合って、検証する」→「話し合いによって合意を形成する」→「今よりマシな状態にする」という過程を経る。この「今よりマシな状態にする」ことが、政治や企業のリーダーの資質であり、必要条件だ。
現代政治学でも、激しく意見をぶつけ合い、そのすえに、それまで見えていなかった問題点をあぶり出す「ラディカル・デモクラシー」が注目されている。ラディカル・デモクラシーとは、討議すること、話し合って合意をつくることにこだわる民主主義で、国民の代表である国会議員やその集まりである政党よりも、討議を繰り返すことで大衆の意見を政治にくみ上げることを重要視する。
東洋大学法学部の竹島博之准教授は、「競技ディベートでは、肯定側と否定側が入れ替わる。このことは、いったん、利害関係を棚上げして、公平な立場に立つ資質を鍛えることにもなる。現代政治学でも議論、討論の重要性は高まっていて、徹底して討論し、熟議することで、少数派、弱者の声を政治に届けようという流れがある。ディベートに中高生たちが熱心に取り組むことは、政治の担い手となる市民の資質を磨くことにつながると思います」と、ディベートと政治の関連性を示していた。
18回目を迎えたディベート甲子園。印象的だったのは、相手の思わぬ出方にも、あわてず臨機応変に対応していた選手たちの頭の回転の早さ。それは、リサーチと準備、積み重ねた練習に裏打ちされたものだろう。その点は、難しい打球にも体を瞬時に反応させる高校球児と重なるところがある。甲子園で活躍した球児がプロ野球の名選手に育つことも多いように、この舞台で活躍した中高生らが、実社会で有能なリーダーとして活躍する日もそう遠くないかもしれない。
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