蒙古襲来に際し、時宗が日本全国の武士団を統一したことも、勝利に繋がる大きな要因であった。この時代、鎌倉幕府が命令を下せるのは、幕府の御家人だけである。守護、地頭を全国に配置しているといっても、土着の国侍や地方の国司などの勢力は、朝廷の命令でしか動かなかった。おまけに真っ先に蒙古襲来に備えなければならない西日本の武士団には、鎌倉幕府の御家人はほとんどいなかった。
元軍の襲来が近づくなか、本来は後宇多天皇に詔勅を賜るべきところではあったが、後宇多天皇は幼少のため、時宗は先の天皇である亀山上皇の力を借りる。亀山上皇から時宗に対して、「日本全国の武士団へ指揮命令権を与える」という宣旨が下りたことにより、日本全国の武士団は宣旨に従って出陣し、北九州へ向かった。
時宗は、亀山上皇の宣旨という非常に巧妙なやり方で日本全国の武士団を統一したのである。
「文永の役」の後には、異国警固番役や長門探題を新たに設置し、御家人のみならず非御家人も動員して、博多湾岸に今でも残る石塁を構築して防衛強化にも努めた。また、国使を２度までも処刑する行為にも出ている。これらの処刑には元への示威行動の意図もあったと言われている。
＜戦争指導者としての時宗＞
元からの再三の朝貢の求めを受け入れ、臣下の礼を取り、属国になっていれば、間違いなく日本には元の役人や軍隊が進駐してきただろう。元の軍人が守護や地頭に代わって日本全国に配置され、あらゆるものを搾取し、伝統も文化も完全に破壊されていたに違いない。元に支配された国々の歴史を見れば明らかである。
属国になることを拒否して、世界最強と言われた元軍を撃退し、征服されずに済んだのは、時宗の世界観と戦略的思考による決断が大きかった。現在のように交通機関や通信手段が発達していなかった時代に、日本全国の武士団を動員し、短期間に兵力を集中した力量は、世界一流の卓越した戦争指導力を発揮したとも言えるだろう。
日本は、白村江の戦いで唐・新羅の連合軍に敗れて以来、600年以上もの間、外国との戦争を経験してこなかった。しかし、当時の日本社会は武家社会であり、しかも執権が北条時宗だったことが幸いした。時宗は34歳の若さで、「弘安の役」からわずか３年後の弘安７（1284）年に亡くなった。元寇に立ち向かうために生まれ、それを成し遂げてすべての精根を使い尽くして死んでいったかのような人生であった。
今、時宗は円覚寺の仏日庵の廟所で眠っている。
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＜プロフィール＞
濱口 和久 （はまぐち かずひさ）
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年３月に竹島に本籍を移す。今年３月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居（おもしろい）』（東京コラボ）、『祖国を誇りに思う心』（ハーベスト出版）などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。５月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか？」（たちばな出版、現在第４版）が発売された。 公式HPはコチラ。
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