北九州都市圏屈指の総合病院として知られる九州厚生年金病院。同病院の対応を巡り、ひとつの訴訟が動き出そうとしている。形の上では同病院と地元個人病院との確執が表面化したものだが、背後には、その上層部が抱える患者(受益者)軽視の姿勢と、医師の理論が支配する居丈高な体質が見え隠れする。地域医療を共に担う「地域医療支援病院」と地元医院との関係はいかに在るべきか。
本件事案が抱える問題点にスポットを当ててみたい。
1.憤慨する地元医院長
「誰のための地域医療か!」、「訴訟の場に出てでも明らかする」-患者に紹介状を書いた後藤院長(後藤外科胃腸科医院、八幡西区)は、九州厚生年金病院の対応に憤る。
発端は今年1月19日。後藤院長は、自身が経営する医院を訪れた高齢患者の診察にあたっていた。症状は重く、患者の息子夫婦も「それならば...」と大規模総合病院への転院を希望。後藤院長もこれに応じ、九州厚生年金病院への紹介状を患者に渡している。紹介状を受け取った患者と家族はその足で九州厚生年金病院へ向かい、同院整形外科を受診。その際、息子夫婦は入院を希望したものの、担当医の判断で断られたという。そして同日夕方、家族に付き添われて再び後藤院長の下を訪ねた患者の容体は、生死にかかわるほどに悪化していたことがカルテから明らかになっている。急ぎ治療を施した後藤院長が、患者家族の前で九州厚生年金病院に入れた電話――これが今回の紛争の直接の契機となった。
2.通話記録が語る確執
電話を通じて紹介患者の扱いに不満を述べる後藤院長と、適切な判断だったと主張する九州厚生年金病院の担当医。電話のやりとりは、その後、担当医の上司であるM副院長に引き継がれた。両者の主張が平行線をたどるなか、対応にあたった九州厚生年金病院・M副院長の発言は、当該患者の対応に関するものから今後の両病院の関係に関するものへと移っていった。以下は、当時の電話記録の一部を抜粋したものである。
後藤院長「患者さんからご要望がある、お宅を紹介してくれと」
M副院長「総合病院は、地域でもうちだけではありません」
後藤院長「患者さんから要望があるのに、(略)あそこは私にとって敷居が高いので、行くなと(患者さんに言えと)言うんですか?」
M副院長「それも仕方ないですね(略)うちを一番良い病院と思って連絡していただくのはありがたいんですが、まあ、次善の策を含めてですね、もう少し広い範囲で考えていただかないと。(略)必ずしも波に向かって毎日全力で突っ走ることもできません。先生ご存じないかもしれませんけど、結構弱い人間もいるんですよ(略)。今後なるべく心を穏やかに、地域のために先生も私たちも医療をしたいと思っているわけでしょう。(略)じゃあ、もうやめましょうよ」
後藤院長「患者さんたちが行くのに、紹介状も書くなということですか」
M副院長「(略)そういう場合は、もう他の総合病院ないしですね、他の次善の策でやっていただくしかない」
――要は、今後は紹介患者を回すなということである。数十分に及んだやり取りは、九州厚生年金病院・M副院長の一方的最後通告によって幕を閉じる。後藤院長は同氏の言葉に憤りを覚えながらも、以降、患者に同院を紹介することを控えるようになったという。
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