耐震強度が基準の22%程度しかないとして、福岡県久留米市のマンション住民が同市に対し耐震強度の検証を求めていた問題で、市が検証をしないという結論を住民側に表明していたことが8月27日までにわかった。久留米市は、検証するという住民への約束を反故にし、住民の生命と財産を守る責務を放棄したことになる。
耐震不足が表面化しているのは、「新生マンション花畑西」。販売したのは新生住宅(株)(本社:久留米市、永野宗重社長=いずれも当時。08年解散)。U&A設計事務所と木村建築研究所が共同設計し、構造設計グループ森岡一博氏が構造設計した。元請・鹿島建設、地場建設会社が施工し、1996年に完成した。
住民らは、2013年2月初旬ころから、久留米市に対し、専門家による耐震検証結果を示して、「殺人マンションから助けてください」と訴え、住民の生命と財産を守り、生活の救済策を講じるよう要望していた。もちろん"殺人マンション"といっても、刑法上の殺人事件が起きたのではない。耐震強度が著しく不足しているため、震度5強程度の地震で倒壊の恐れがあり、ただちに解体しないと住民はもとより周辺住民にも危険が及ぶ恐れがあるから、住民らが叫んでいるものだ。
これに対し、久留米市は住民との話し合いを重ね、住民側が、竣工図に基づいて耐震設計(構造計算)の再計算結果を市に提出し、本山忠彦建築指導課長がその検証を約束していた。
久留米市は、一般社団法人日本建築構造技術者協会(JSCA)に検証を依頼し、9月末には検証結果が出るというスケジュールを住民側に示していた。ところが、本山課長の住民への説明によれば、JSCAがいったん承諾していた依頼を断ったため、東京の業者にあらためて依頼したとされていた。その後、東京の業者へ依頼していないことが発覚。住民側は市に強く抗議し、都市建築部の井上健介次長が対応に乗り出した。井上次長は、本山課長の約束を反故にして、「市として構造再計算結果の検証はできない」と表明し、その代わりとして、「耐震診断が提出されたら、重く受け止める」と、耐震診断の実施を提案した。
住民らによれば、8月16日、住民側が耐震診断結果を提出するために、市との話し合いにのぞんだところ、井上次長が「受け付けられない」と述べ、安全性の検証について「放棄する」と表明した。
市は、構造再計算結果と耐震診断結果という2回にわたって、約束していた「危険性の検証」を反故にしたことになる。
井上次長は、「すべて市長に報告してあり、私の言葉は、市長の言葉と思ってもらっていい」と住民に表明しており、楢原利則市長は、マンションの危険度を十分に認識していながら、フタをしてしまったと言える。市は、耐震診断と改修設計料で2,400万~2,500万円かかるのを百も承知で、いとも簡単に住民に負担させ、その検証を拒んだ。楢原市長の責任は重い。
マンション管理組合の下川紗葵理事長は、NET-IBの取材に対し、「久留米市の言うとおり、住民のお金を使って専門家に依頼して、構造計算の検証や、耐震診断を実施して提出したのに、見捨てられたような気持です。生命と財産を守る責任のある市が、安全性の検証をしてくれると思っていただけに落胆は大きい」と話した。下川理事長は「本山課長が検証を約束し、スケジュールまで示していたのはなんだったのでしょうか。井上次長が『耐震診断が出れば重く受け止める』と言っていたのは、なんだったのでしょうか。久留米市の言うとおりにやって、私たちは時間とお金を使わされただけ。絶対に許せません。今後は、裁判を含む法的手段で、市の責任を問いたいと思っています」と語っている。
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