土地選定・取引の不可解なプロセスが住民監査請求に発展した、(社福)福岡市保育協会 中央保育園の移転予定地について、さらに不審な点が見つかった。福岡市が(株)福住から移転用地を取得する際の不動産鑑定において、依頼前に市の担当職員が「鑑定見込額」として「9億~10億円」と設定していたことは既報の通り。作成した職員は、不動産鑑定士に払う鑑定料の見込みとして表記したと説明していたが、その後の市への取材で、「鑑定見込額」を市職員が記載する必要がないことがわかった。
不審点が見つかったのは、中央保育園の移転予定地の不動産鑑定を依頼する随意契約の決裁文書。市は、依頼先の不動産鑑定所について、直近で移転予定地付近の不動産鑑定を行なっていたことを理由に選んだと説明。その鑑定とは、福岡市立中央児童会館(以下、中央児童会館)の建て替え事業にともない、同土地に対して行なわれたものである。
市に対し、中央児童会館の土地の不動産鑑定にかかる文書のすべてを情報公開請求したところ、公開された文書に含まれていた同鑑定依頼の随意契約の決裁文書には、「鑑定見込額」の記載はなし。鑑定料については、「中央用地対策連絡協議会の申し合わせによる「公共事業に係る不動産鑑定報酬基準」が適用」とあった。中央保育園の不動産鑑定でも同じ報酬基準が使用されている。
市財産の貸付、売却、評価などを担当している財政局財産管理課によると、不動産鑑定依頼の随意契約の決裁文書には必須項目などの定めがなく、担当課の任意で行なわれているという。
中央保育園の移転予定地も中央児童会館建て替えも、担当課は違うもののどちらも同じ市こども未来局の所管である。しかし、不動産鑑定依頼において、前者は「鑑定見込額」を算出し、後者は算出していなかった。鑑定評価日は、前者が2012年6月11日、後者はそのちょうど2カ月前の同年4月11日で、ほぼ同時期に行なわれたと言える。なぜ、中央保育園の移転予定地には、「鑑定見込額」を出す必要があったのだろうか。さらに疑問なのは、見込額を算出したのがこども未来局の保育課職員であることだ。不動産鑑定の経験もない職員が、なぜ、実際の鑑定評価額に近い数値(9億~10億円)を算出することができたのだろうか。
一方で、数億円の市税の投入が絡む案件に関して、福岡市のリスク管理は正直、「甘い」と言わざるを得ない。中央保育園および中央児童会館の不動産鑑定依頼は、担当課長決裁の随意契約で行なわれており、その文書は、財政局ではチェックされていないという。しかし、専門家ではない職員が、経験したことのない不動産鑑定依頼を行なっており、結局、財政局財産管理課にアドバイスを求めていたのが実情だ。利害関係に直接絡む可能性が高い現場の職員にどの範囲まで任せるか、また、そのチェックをどのように行なっているのかという問題は、リスク管理の上で熟慮しなければいけないはずである。
▼関連リンク
・中央保育園移転問題(福岡市中央区今泉):保護者の会HP
※記事へのご意見はこちら