長崎県最大級の水産物直売所「長崎漁港がんばランド」をめぐって、長崎県が県議会に説明した「水産物直売所」の定義を意図的にごまかしていた疑いが浮上した。県は、「がんばランド」に対し、一般食品・生活用品売り場面積を全体の10%程度に制限するよう行政指導し、「がんばランド」が経営、雇用が維持できない事態に追い込まれている。県の方針の合理性・客観性が問われている。
「水産物直売所」の定義について、長崎県の田添伸水産部次長は、県議会県政改革特別委員会で、漁業センサスの定義(「地元の生鮮魚介類や水産加工品等を定期的に消費者と直接対面で販売する施設」)をあげて、「水産物直売所は、売り場の全体が水産物直売所だというのが基本」と答弁し、一般食品・生活用品の販売は限定的だと説明していた。
漁業センサスは、5年ごとに実施され、漁業の生産構造、就業構造などを明らかにし、水産行政推進の基礎資料として活用されている。
農水省の漁業センサス担当によれば、漁業センサスで把握する「水産物直売所」は、基本的に漁協直営の施設。漁業経営体、漁業管理組織、漁協を対象にした海面漁業地域調査票・内水面漁業地域調査票によって、「漁協が運営する水産物直売所」を調査したものだ。したがって、基本的に漁協直営以外は含まない。
「がんばランド」は、漁協や民間などでつくる長崎漁師村運営協議会が運営するので、そもそも「漁業センサス」の対象ではない。水産関係の行政マンであれば、漁業センサスを当然熟知しているはずだ。しかも、2013年は漁業センサスの調査の年である。漁業センサスの「水産物直売所」が漁協直営のみを対象にしているのは常識だ。
では、漁協直営に限定せずに、「水産物直売所」について調査する統計はないのか。調べてみると、「6次産業化総合調査」があった。
農水省に取材すると、「6次産業化総合調査」では、「水産物直売所」とは、「食品衛生法に基づき『魚介類販売業』の許可を得て、生鮮魚介類、水産加工品等を定期的に消費者と直接対面で販売するための施設を有し、その販売活動に専従の常時従業者を使用している事業所」と定義されている。担当者は「前提に、漁協みずから、または組合員の漁業生産で得られた生産物を販売していることが必要だが、水産物以外のものを売っていてもよく、その割合に限定はない」と語った。
漁港関連施設用地を水産物直売所として「がんばランド」に占用許可するにあたって、県水産部は、一般食品・生活用品の占める割合について、数字の基準はないと説明してきた。
「6次産業化総合調査」の「水産物直売所」の定義が、この県の説明とまさに符合する。
県水産部職員がそろって無知でなければ、「がんばランド」に当てはまらない漁業センサスの定義を持ち出したのは不自然だ。意図的に、漁協直営でない「がんばランド」について、漁協直営の「水産物直売所」の定義を県議会に説明したとすれば、県民の代表である県議会への背信、冒涜である。
県の田添水産部次長は、NET-IBの取材に対し、「水産物直売所の定義は、漁業センサスしかない。漁業センサスの水産物直売所の定義には、経営者がどこかという定めはない」と答えた。
漁獲量2位を誇る水産大県・長崎県の水産部の優秀な行政マンとして、信じられない回答である。
山田博司・長崎県議(元農水経済委員長)の話 「議会と行政の信頼関係が崩れる深刻な問題だ。行政は中立・公正であるとして、提出資料・答弁を信頼して議論をしている。この問題は、9月議会で徹底的に調査したい」
※記事へのご意見はこちら