2004年5月に日本マクドナルドの持ち株会社と事業会社の社長に就任した原田泳幸氏は、斬新なマーケティング手法でマクドナルドを再建させた。05年に導入した100円マックは"ワンコイン商品"の先駆けとなった。100円マックの低価格メニューで集客して、リピーターとなった顧客にクォーターパウンダーの高価格商品を売り込むという、原田氏が最も得意してきたマーケティング戦略で、8年連続既存店売上高のプラスを達成した。
<東日本大震災後の消費者の行動を読み違える>
だが、12年12月期の既存店売上は9年ぶりにマイナスとなった。多額の販売促進費を投入したハンバーガー「世界のマック」シリーズ(定価400円前後)の売れ行きが不振だった。
原田氏は、東日本大震災後の消費者の行動を読み違えた。震災の影響で落ち込んでいた消費は戻ってくると予想したが、売れるのは100円バーガーなど低価格メニューだけ。高い価格のバーガーは伸びなかった。低価格メニューを強化し、客数を一気に伸ばした後、価格の高い商品を投入して既存店の売り上げを伸ばす。原田氏が、マックで採ってきたマーケッテング手法がきかなくなった。
そこで12年11月、商品・価格戦略を転換。これまでの低価格の季節限定メニューの投入を抑え、採算のよいビックマックなど定番メニューの販促に舵を切った。だが、低価格新商品の投入を減らしたことか裏目に出た。既存店売上高は1月が17.0%減、2月が12.1%減と大きく落ち込み、客数、客単価ともに昨年実績を下回った。
再び、低価格の季節メニューを投入するなど、商品・価格戦略を見直した。5月からは100円バーガーを120円に値上げする一方、マックフライポテトなど割安な100円台の商品を拡充した。低価格商品の品揃えを強化して集客を高め、定番品を値上げして客単価を引き上げ、既存店の売り上げ増につなげるという戦略である。
<ぶれるマーケティング戦略>
しかし、このマーケティング戦略は不発に終わる。7月の既存店売上高は前年同月比2.7%減と3カ月ぶりに減少した。限定販売した1個1,000円の高価格ハンバーガーが完売するなど「クォーターパウンダー」シリーズが好調で、客単価は7.5%上昇したが、客数は9.5%減と3カ月連続マイナスとなった。
「メディアが"100円マックは消えた"と報道したせいではないか」。8月9日に開いた決算発表の場で、原田氏は、そう恨みを口にしている。マーケティング理論として正しかったが、客足が遠のいたのは、100円マックが消えたと報道され、お得感がなくなったと消費者が感じているからというわけである。いささか八つ当たり気味である。
その結果、2013年1~6月期決算は、売上高が前年同期比11.4%減の1297億円(前年同期は1463億円)、本業の儲けを示す営業利益は同40.6%減の70億円(同118億円)、純利益は同34.9%減の45億円(同70億円)と大幅な減収減益に沈んだ。13年12月期の業績予想を減収減益に下方修正した。前期(12年1~12月)も減収減益に終わっていた。2期連続の減収減益は、原田社長が2004年にマクドナルドのトップに就任して以来、初めてだ。
原田社長が最も得意としてきたマーケティング戦略が不発に終わったということだ。輝かしい成果をあげてきた原田氏のマーケティングの手腕の賞味期限が切れた。これが社長交代の理由である。
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