(社福)福岡市保育協会 中央保育園の移転予定地について、その不動産鑑定を依頼する際に「9~10億円」という鑑定評価額および鑑定料の見込みを出していた福岡市。市への取材で、「鑑定評価額」の見込みは、必ずしも必要な項目ではなく、実際に、その2カ月前に行なわれた福岡市立中央児童会館の土地の不動産鑑定においては、同様の見込み額が算出されていなかった。そもそも、この「9~10億円」という見込み額は、誰が、どのようにして算出したのだろうか。
この問題を考えるうえで重要なのは、「9~10億円」という見込み額を算出したのが、不動産鑑定のノウハウを持たない市こども未来局の保育課職員であることだ。同職員やその相談を受けた市財政局は、「9~10億円」の根拠は、路線価や公示地価、直近の不動産鑑定事例などと説明。しかし、試算の経緯を裏付ける記録は存在しなかった。
移転予定地周辺の路線価は、2012年時で1m2あたり約47万円。この数値で考えると、1468.64m2の移転予定地は約6億9,000万円となる。なお、同土地を福岡市に売却した(株)福住が、同土地を前の所有者から取得した11年時、路線価は1m2あたり49万円。1468.64m2は約7億2,000万円で、実際の購入金額7億3,300万円とほぼ同じ金額。ただし、福住が取得した際、同土地には2階建てのコインパーキングが存在しており、更地にして市に明け渡す13年4月の前まで営業していた。
一方、同じ不動産鑑定所が行なった中央児童会館の土地の鑑定において参考となった公示標準地は、「福岡中央5-13」(福岡市中央区大名1丁目)で1m2あたり114万円。同土地の評価額は、1m2160万円となっており、同事例を参考に「9~10億円」を算出したとは考えられない。なお、中央保育園の移転予定地の鑑定で公示標準地とされたのは、「福岡中央5-3」(同)1m2あたり61万円。これを元に試算すれば、移転予定地の約8億9,600万円となる。
中央保育園の移転予定地の取得費の見込みは、11年7月26日の市政運営会議でも出されていた。ただし、その額は、1m2あたり55万2,000円で試算され、約8億1,200万円となっている。福岡市の調査報道サイト「HUNTER」によると、その根拠について市は「路線価」と説明。しかし、その経緯を記した文書はなく、同サイトは、前述した当時の価格49万円とズレがあることも指摘している。
同土地の価格について、12年6月11日を評価日とする不動産鑑定士の評価額は9億762万円。福岡市が福住から同土地を取得した際の購入金額は8億9,900万円であった。市の見込み額は、事実上、根拠がないものと言える。突如として現れた「9~10億円」。不動産取引にまったくの素人である保育課職員が、路線価からかけ離れた、実際の不動産鑑定の評価額に匹敵する見込み額を立てたことは、単なる「偶然の一致」とは思えない。なお、同職員は、NET-IBの取材に対し、鑑定評価額の見込みを出す際、他の職員にも相談したと説明。不動産鑑定所には、この見込み額を伝えていないという。
▼関連リンク
・福岡市・中央保育園移転問題 不動産鑑定依頼に不審な点
・中央保育園移転問題(福岡市中央区今泉):保護者の会HP
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