＜久しぶりに完工高30億円を突破＞
　（株）曙設備工業所（本社：福岡市早良区、野田弘之社長）の勢いが止まらない。８月末で完工高24億円、手持ち40億円で、あと４カ月を残す2013年12月期では30億円の大台に乗る勢いだ。リーマン・ショック前後に30億円の完工高を記録して以来の数字をあげることがほぼ確定した。野田弘之社長が語る。「12年末期には手持ち・契約40億円を有していた。そして８月末までに24億円、工事消化をしたのだが、手持ち契約もまだ40億円ある。今後、200戸以上の大型物件も飛び込んできそうで、契約高は膨むであろう。15年12月期までの３期とも30億円は突破できそうだ」。

　決して野田社長は鼻息荒い素振りは見せない。「弊社がこれだけの仕事ができるのは、100人の職人の方々の手を借りてこそ、である。いわば職人さんたちの神の手に頼っておまんまにありついている。彼らに感謝しなければならない。しかし、我々の恩人たちの待遇は恵まれていない。とくにこの５年間、哀れな状態に追い込んだことは深く反省している。５年前は必死で仕事をすれば年収600万円にはなる人たちもいた。それが400万円を割るような始末だ。それで若者たちは見切りをつけて、この世界から足を洗うようになった。結果、一挙に老齢化してしまった」と、悲惨であった過去が招いた現状を語る。

＜職人親方との賃金交渉＞
　言われてみて、とある記憶が蘇ってきた。
　昨年３月のことであったか、同社を覗いた際に職方の親方らしき人が応接室に座っていた。野田社長と真剣勝負の話し合いをしていたが、形相は険しい。「あー、値上げ交渉をしているのだな」と、一瞬にして理解した。30分ほど待っていたら、来客は退社された。その顔には悲壮感が漂っていた。ちょうど１年半前、建設現場の労務費が底値の時であった。おそらく言い分がまったく通じなかったのであろう。

　そのときのことについて、野田社長に尋ねてみた。「確かに弊社の職人の親方の１人だ。《15％の単価をあげていただきたい。職人たちも生活ができないのだ》と惨状の現実を訴えられた」と経緯を披露してくれた。「私自身は、職方の労賃をカットしてまで暴利をむさぼるつもりは毛頭ない。彼らが人並以上の生活ができるような仕事を請けたいと願っている。ところが建設会社からいただく受注単価は厳しすぎる。職人さんへ単価アップを認めたら会社は採算割れになる。赤字が続けば、いずれ資金ショートする。そうなれば彼らは職を失う。いやー、本当に悩んだ。結果として昨年の秋あたりから、風の向きが良い方向にチェンジしだした」と、苦しみを打ち明けた。風向きが完全に変わったのは、今年３月以降のようだ。

　どれだけの違いが生じるのか説明してみよう。同社が完工高ピークの30億円を突破したことは述べた。この当時の労務費と比較すると、昨年３月あたりではどん底の職人の日当換算では40％ほど低くなっていたそうだ。今年になって職人の手間代が上がり始めたとしても今期13年12月期にはあまり反映されない。それを多少勘案して今期達成する30億円の完工高は、ピーク時に置き換えると30億円を上回る34億円程度に該当するそうだ。現場の消化戸数から比較しても、ピーク時30億円の時よりも15％増の数をこなすとみられる。まさしく空調工事の職人さんたちは、デフレの被害者たちだったのだ。

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