土地選定・取引が不透明なことから住民監査請求に発展した(社福)福岡市保育協会 中央保育園の移転事業で、ずさんな行政事務の実態が次々と明るみになっている。既報の通り、同事業に関する福岡市の調査報道サイト「HUNTER」の情報公開請求に対し、福岡市は条例で定められた期限内に公開・非公開の決定通知を行なわないという違反行為を犯した。また、その遅れに対する指摘を受けてから決裁を行なうなど、「不作為」の実態も露呈した。
NET-IBでは、移転予定地に対する市側の鑑定見込額試算「9~10億円」(2012年5月11日決裁)の根拠をめぐって、決裁を出した市こども未来局 保育課長を取材した。同保育園の保育士・保護者から反対意見の多い移転予定地だが、不動産鑑定を依頼する前に、同事業を担当する市こども未来局の保育課職員が「9~10億円」という実際の鑑定評価額に近い金額を試算していた。
取材でのやり取りは以下の通り。
――9~10億円の鑑定額見込みの根拠は何か。
保育課長 路線価である。
――当時、移転予定地周辺の路線価(1m2あたり最大47万円)だけを根拠に試算すると9億円にとても及ばない。
保育課長 路線価と中央区全体の地価の動向も参考にし、金額も幅を持たせている。
――同じ不動産鑑定所が行なった直近の鑑定事例も参考にしていないか。
保育課長 (文書を起案した職員へ聞き取りを行ない)参考にしたが、見込み額には反映していない。また、"路線価は実際の地価の8割"と考えて、試算している。
――最後に確認するが、不動産鑑定所には、この見込み額を伝えていないか。
保育課長 (同じ職員に聞き取りを行ない)伝えていない。
当時(12年5月)、移転予定地周辺の路線価から同課長の言う"8割戻し"で「地価」を算出すると、1m2あたり最大約59万円となる。これから算出すると、1468.64m2の移転予定地は約8億6,300万円で、見込み額の最低ラインである9億円に達しない。既報の通り、2011年7月26日の市政運営会議で示された現・移転予定地の取得費の見込みは、1m2あたり55万2,000円で試算され、約8億1,200万円となっていた。
さらに、「HUNTER」によると、同課長は同サイト記者からの同じ質問に対して、根拠を「路線価のみ」と答えていた。上記の通り、路線価のみではなおさら「9~10億円」に届かず、まったくデタラメ。情報公開請求で条例違反を犯したあげく、虚偽の説明を重ねていた可能性は高い。中央保育園の移転問題に関して、市民の不信感を強める一因と言える市側の不誠実な姿勢は相変わらずのようだ。
なお、「HUNTER」は、市が条例違反を犯した情報公開請求について、実施機関が髙島宗一郎福岡市長であることから、市長名での文書による回答を求めている。『発信力』を謳う市政トップが、『情報公開条例違反』という市職員の不始末に関して、どのような対応を見せるのか。注目したい。
▼関連リンク
・福岡市・中央保育園移転計画の実態―情報公開請求放置の背景―(HUNTER)
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