日本の都市デザインの第一人者であり、"キャナルシティ博多"のデザイナー、プロデューサー的役割を担った、千葉大学大学院教授の柘植喜冶氏。同氏は、世界各地の都市計画や施設計画にも参画しているが、「都市」の専門家から見た都市の面白さの真髄とは何か―。日本における都市づくりから、今後の福岡についてまで、同氏に有識者の立場からの話を聞いた。
――プレイスメイキング思考はとても面白い考え方ですね。もう少し背景などを含めて解説していただけますか。
柘植喜治氏(以下、柘植) 1970年代、先進国では"物質文明"が飽和状態に達し、ショッピングモール等に人が来なくなったことがあります。このときに、商業施設をリニューアル化していくムーブメントが起こり、回遊とか、祝祭空間(festival market)という再生手法も生まれ、それを進化させて都市づくりに活かしたのがジャーディ社など先進的な人たちで、これがプレイスメイキング思考の原点です。
プレイスメイキング思考では、オブジェクトとオブジェクトの間を大事にし、その空間を徹底的に活かします。その理由は、建物は関係した限られた人しか入ることができませんが、それらの間のbetweenは、普通の人が誰でも入ることができるからです。
さらに、通常はゾーニングと言って、たとえば、ホテルの場所や公園、商業施設をつくる場所を最初に決めてしまいます。ところが、シャーディ社の手法では、整理、分割せずに積極的にミックスさせるのです。
ミックスさせることによって。街を歩いていると、予期しないさまざまな体験に遭遇します。実は、都市の面白さの真髄はここにあり、その"ワクワク、ドキドキ感"が人を都市に惹きつけるのです。人が街に出るのは、目的があるからです。
しかし、目的だけを独立してつくってもダメなのです。専門用語でいうと「impulse(衝動買い)」は「destination(目的買い)」と同じか、それ以上に大事なのです。
ジャーディ時代には、キャナルシティ博多も含めてデズニーのチームとよく一緒に仕事をしました。彼らは、アトラクションを、(1)「プレ・ショー(乗るのを待って並んでいる期待のとき)」、(2)「アトラクション」、(3)「アフター・ショー(食事、お酒で楽しさ、喜び等を余韻にひたる)」の3段階に分けます。こうしたテーマパーク的手法は、とても参考になりました。
――日本では、まだまだ例が多くないと思いますが、外国ではこの、テーマパーク的手法は普通に行なわれているのですか。
柘植 日本の場合は、都市計画の多くは行政主導でまず青写真が作成され、住宅、商業施設、ホテル、公園などゾーニングが決められてしまいます。そこで、残った限られた範囲で、アイデアを競うことになります。
しかし、外国―米国はとくにそうですが、民間デベロッパーがとても強い力を持っています。そこで、青写真作成段階から、民間デベロッパーが都市計画に参画し、制度設計(税制、法律まで)まで関与することが多いのです。
これからの都市計画に必要なダイナミックで、柔軟な発想は行政より民間のほうが向いています。現実に、日本でも徐々にこの傾向が見られるようになってきています。
<プロフィール>
柘植 喜冶(つげ・きはる)
1977年多摩美術大学美術学部卒業、カリフォルニア大学(UCLA)大学院修士課程修了、ザ・ジャーディー・パートナーシップ 主任デザイナー、カリフォルニア大学(UCLA)客員教授を経て1996年から現職。主な設計にFashion Island(米国)、キャナルシティ博多(福岡)他。主な受賞にUIA 国際建築学会主催国際設計競技・最優秀賞、米PA誌・プランニング部門・年間最優秀賞、(社)DDA協会主催研究賞'95 大賞・朝日新聞社賞、通商産業省選定「グッドデザイン賞」他。主な著書に「環境をデザインする」(朝倉書店、共著)他。千葉大学大学院工学研究科都市環境システム学科教授。公益社団法人商業施設技術者・団体連合会会長。
※記事へのご意見はこちら