<群雄割拠の様相も呈する>
ただし、厳しさだけが増している業界、というわけではない。というのが、日本人の多くが、皿洗いには水道水を、料理には浄水器の水を、飲用にはミネラルウォーターを、といった具合に水を使い分けるようになってきているのだ。これまで水道水を飲んでいた人が、ミネラルウォーターなどを飲むように変わっていくケースが増えてきているのである。従って、サービスを提供する側は拡大するパイでどれだけのシェアを獲得するかに腐心しているのである。
そんななか、激化する宅配水業界の主人公たちは、アクアクララ、クリクラ、コスモウォーター、フレシャスなどだ。少し説明しておこう。
アクアクララは前述の通り、レモンガスの出資によって企業再生を成した企業。販売しているのはRO水。独自のFC展開で一気に全国に広がった、パイオニアとも言える企業である。
クリクラはアクアクララの前身、アクアクララジャパンの頃のフランチャイジーだった(株)ナックが、アクアクララから独立し打ち立てたブランドだ。クレヨンしんちゃんのCMでも知られている。住宅事業としてレオハウスブランドも持つ。アクアクララからの分岐であるため、やはりRO水を販売している。
(株)コスモライフが展開する水ブランド「コスモウォーター」は、全国各地の採水地からの水をセールスポイントとしている。ボトルも従来のガロンボトルではなく、ペットボトルを採用。それを再利用するかたちではなく、ワンウェイで捨てる方式を採ることで、衛生面での安心確保を実現している。
フレシャスもコスモウォーターと同じく天然水を採用している。運営会社は富士山の銘水(株)だ。こちらは富士山麓を採水地にし、バナジウムを豊富に含む水ということでファンの心をつかんでいる。また、サーバーのデザインにもこだわっているのが特徴だ。
これら企業群がそれぞれ、営業力と商品、企画力、サービスで争っている。顧客数では、コスモライフ65万件、ナック55万件、次いでフレシャスといったかたちで、アクアクララは43万件。水事業の先駆け企業でさえ、その地位は盤石とは言えない状況なのである。市場は拡大しているとはいえ、群雄割拠の様相を呈しているのが現状と言えそうだ。どこが覇権を握るのか、はたまた、他業界の浸食を受けて宅配水業自体の存続が危ぶまれるのか。今は過渡期と言ってよいように思われる。
<かつての先駆者に不穏な動き>
時代が遷るときには、往々にして妙な動きというものが出てくるものだ。それは噂であったり、人の移動であったり、足の引っ張り合いであったり、価格の叩き合いであったり――。宅配水業界でもそのような「妙な動き」が出始めている。それは、アクアクララに対する怪文書の流布である。
同社社員を名乗る人物が、アクアクララの関係者らにアクアクララの現状を嘆く文書を送っているのだ。それによると同社は、(1)「フランチャイジーをないがしろにし、敵対するかのように直営工場を設置するなどしている。それによって撤退を余儀なくされたフランチャイジーもいる」、(2)「また、訴訟沙汰にまで発展している」、(3)「関心を引くためだけの広告キャンペーンを行なっており、過激な表現が多いため苦情が殺到している」などというものだ。
これについてアクアクララ本社に問い合わせたところ、(1)について、同社はフランチャイジーのロイヤリティで収入を得ている身分であり、"フランチャイジー様"で成り立っている。足を引っ張るなどということはない。たしかに北部九州や関東に自社直営工場を新設するなどしたが、それは市場の需要を満たすことと、震災などの天変地異のときの対応を目的としたものであり、フランチャイジーの顧客を横取りするためではない。
(2)について、訴訟に関してフランチャイズ契約もあることなので詳しく言えない。
(3)について、広告が過激すぎたとのご批判は受けた。やりすぎたという指摘もたしかにある。キャンペーンを実施するにあたり、反対派も多くいたのは事実。開始1日で取りやめたのもそういった判断から。
そのような返答が得られた。
その後、多方面への取材の結果わかったことは以下の通り。アクアクララは自社工場も新設しており、それによって損害を被ったという理由でアクアクララの事業から少なくとも2社が撤退していることが確認できた。そのことがこじれて訴訟にまでも発展しているということも確認することができた。
かつてのリーディングコンパニーも、もはや業界ではコスモライフ、ナックに大きく引き離され、社内(自称)からもこんな告発文が出るような状況で、業界4~5位の中堅企業に成り下がった。これ以上の失態は、今後の同社の生き残りにも大きな影響を与える可能性がある。慎重なかじ取りが期待される。
宅配水を取り巻く環境は、非常に流動的だ。とはいえ、水の使い分けが進んでいる。市場は広がっているし、サービスも多様化している。そういった状況下でどのような事業が発展していくのか、もしくは、共存していくのか。宅配水業界は今、おそらく分水嶺に立っている。今後の変化には注目していくべきだろう。
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