柿沢未途氏を実質上除名した渡辺喜美みんなの党代表。結党時から一緒にやってきた仲間を切っても、その猜疑心は一向に衰える様子を見せない。柿沢氏を離党させた8月23日直後、渡辺氏はある議員に「他に処分する議員はいるのか」と尋ねられ、こう答えている。
「柴田、江口、江田が(新党結成の動きに)関与している」
このうち柴田巧氏については、8月27日午後に浅尾慶一郎幹事長と山内康一衆院国会対策委員長が面接し、野党再編についての見解を聴取した。柴田氏は、渡辺氏が提唱する政党ブロック制について理解を示し、「野党再編の起爆剤か」と報道される"DRY CLUB"についても、「政策勉強会だ」と弁明した。
翌28日、浅尾氏と山内氏は、井坂信彦氏を事情聴取した。井坂氏は江田憲司前幹事長に近く、8月7日の両院議員総会では「(渡辺氏が作った)今日の人事案では挙党一致、党内融和は不可能」と述べて、江田氏を更迭した渡辺氏に真っ向から反論した人物だ。浅尾氏らからの聴取にも「代表が党を割りかねない過激な動きをしているので、大変危険だ」と渡辺氏のやり方を批判した。
ところが奇妙なことに、渡辺氏みずからが「離党しろ」と迫った柿沢氏と異なり、この2人は何の処分も受けていない。事情聴取の現場に渡辺氏は同席せず、事後に浅尾氏から報告を受けただけにとどまっている。柴田氏と井坂氏は、柿沢氏のように再度呼び出されることもなく、江口氏も江田氏も呼び出されることはなかった。江田氏更迭・柿沢氏離党をピークとしたみんなの党の騒動は、ここにきていちおうは収束しているようにも見える。
だが様々な矛盾を抱えていることは事実だ。
例えば離党した柿沢氏にしても、その行動が不可解だ。離党直後に開いた会見とは別に、9月2日に2度目の会見を日本記者クラブで開いたが、新党構想の披露かと思いきや、志を同じくする同志もいなければ具体的構想もなし。柴田氏も井坂氏も処分を受けないのに自分だけが「お咎め」を受けた理由について質問を受けると、何かに遠慮でもしているように「わたしは"みんなの党の評論家"ではない」とかたくなに回答を拒否した。
更迭された江田氏がみんなの党を離党するつもりがないことも、奇妙に見える。しかし江田氏がおとなしく、無役の現状に甘んじるはずはない。6日に開かれた政党ブロック構想に関する勉強会では「実現可能性はあるのか」と疑問を投げ、存在感をアピールした。
そんな江田氏に対して、みんなの党の関係者は「江田さんはタイミングを見ている。新党が結成されるなら、できるだけ多くを引き連れて離党する」との印象を抱いている。
ではその"タイミング"はどこにあるのか。新党を作るなら急がなければならない。政党助成金をもらうためには、1月1日現在で政党を結成しなければならない。その要件は5名以上の現職の国会議員が参加しているか、直前の選挙で有効投票の2%を獲得していることだが、参加する国会議員は多ければ多い方がいい。
その上で注目されているのが前述のDRY CLUBだ。11日には参院選後初めて会合を開いたが、みんなの党から何名が参加したかが注目された。ただし有力なパートナーである日本維新の会は堺市長選の真っ最中で、9月末まで動きがとれない。10月15日と囁かれる臨時国会開会を待って、彼らの現実的な動きが始まるだろう。
その一方で、別の動きもある。党財政の多くが政党助成金など公金であるにもかかわらず、党内の決済ルールを決めるのを頑なに拒否する渡辺氏を見限る声も少なくない。
「渡辺氏は独裁を行ないたい。そのためには自分より格の上の人間を嫌がる。江田氏を更迭したのも、頭のよさでは江田氏に到底かなわないからだ」(同党関係者)
またこんな声もある。
「参院選挙前に行田邦子氏をみどりの風からスカウトしたのは、行田氏が渡辺氏より若く、渡辺氏の言うことに唯唯諾諾としているからだ。渡辺氏より年配で、松下幸之助氏の秘書を務めて政界や財界にそうそうたる人脈を持つ江口氏などは、もっとも目ざわりな存在だろう」(同党関係者)
実際に江口氏はそれを察知しているようで、江田幹事長を更迭した8月7日の両院議員総会でこう述べている。
「江田さんの処遇について考えてもらいたい。私、最高顧問だが、降りてもいい。江田さんに最高顧問になってもらうとか...」
この発言は党の第一線から離脱したいという江口氏の本音を示しているように思える。江口氏はこれまで渡辺氏の「ご意見番」として心を砕き、「党全体を考えた方がいい」と何度も進言してきたという。だがその言葉は、渡辺氏の心に届くことはなかったようだ。
「江口氏が離れると、続く人間が出てくる。その時がみんなの党の終わりの時だ」という声も少なくない。
さて、冒頭の発言で、渡辺氏が江口氏の名前を出した真意は何か。9月6日の記者会見でこのことを尋ねられた渡辺氏は「事実について聞いていない」と答えて冷静を装った。だが蟻の一穴はじわじわと党内をむしばんでいくはずだ。そしてその原因が代表自身であるということを、当の代表だけがわかっていない。
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