<「反日」と「親日」が同居する現実!>
雪解けの気配が見えない日中関係。「反日」報道が多い中国であるが、一方で中国人女子たちが今、愛してやまないものがアニメ・マンガやJ-POPなどの日本文化である。
著者の櫻井孝昌氏はコンテンツメディアプロデューサー、作家、デジタルハリウッド大学大学院教授である。世界24カ国のべ110都市で講演、ファッションプロデュースなどの文化外交を実施。外務省アニメ文化外交に関する有識者会議委員などを歴任している。
中国の「反日」デモが報道されることはあっても、その何倍、何十倍もの人が集まり、中国人自身が開催している「日本のアニメやマンガを中心にしたイベント」が日本で報道されることはほとんどない。デモが事実なら、何万人もの若者が日本文化に関心を寄せ、一カ所に集まっていることも事実である。
北京や上海だけでなく、瀋陽や重慶といった内陸の大都市の女性も、日本人が一般的に思う以上に自由に使えるお金を持っている。原宿や渋谷の日本のファッションブランドの価格帯である1万円前後は、そのままの値段でも充分に勝負できる。著者は「日本が大好きである彼らは、日本にとっても、そして日本経済にとっても、宝物のような存在」と言う。
現在、中国で売れている日本の雑誌の代表は『ViVi』と『mina』である。その中国語版は日本での売り上げをはるかに凌駕する100万部に近い数字を叩き出している。
<死角だらけのクール・ジャパン計画!>
国際交流基金の調査によると、世界での日本語学習者は1998年が210万人、2003年が235万人、2009年が365万人と、特に21世紀に入り急増している。「失われた20年」という日本の総合力低下が続いた中での話である。そして、その最大の理由が、アニメ・マンガにあることは衆目一致する見解である。吹き替えや翻訳でなく、生でしかも迅速に(タイムラグは1年近い)原作を読みたい、見たいというのが大きな理由だ。
一方で、著者は霞ヶ関の有識者会議で「私たちはハイカルチャーを普及させているので・・・」と関係者に言われる。カルチャーに「ハイ」と「ロー」の差はあるだろうか。
伝統文化の普及とポップカルチャーの普及は二律背反するものではなく、むしろ相乗効果をもたらす。「ポップカルチャー」の海外配信を閉ざすことは、「伝統文化」を普及させたい人が自分で自分の首を絞めているようなものと著者は断言する。日本を理解し、好きになってもらうという外交の根底を考えれば、文化外交の選択肢を国や官はもっと真剣に考えるべきである。
韓国のポップカルチャーは、この日本の"逡巡"の合間を縫って、中国は勿論、世界中に急速に勢力を拡大している。同時にファッション業界でもE-LANDという韓国最大のアパレル企業の進出が中国で加速している。音楽業界にしても、これからは国内市場だけで食べていけると考えるのはもはや幻想に過ぎない。そういう意味で、日本文化全体の入口となっているポップカルチャーをもっと有効に活用すべきである。
日本のアニメ「動漫」やマンガが若者の精神形成に大きな影響を及ぼしていることは、中国政府も認識している。その「文化侵略」を嫌い、2006年9月1日から、夕方のゴールデンタイムにおける外国アニメの放映禁止処置等をしている。
しかし、この"精神文化"の革命は、将来的にはきっとビジネスでも、外交でも日中双方に互恵的関係をもたらしてくれるはずだ。
この問題をさらに考えてみたい人には「中国動漫人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす」(遠藤誉著、日経BP社)も参考となる。
<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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