NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、強い運気を示してきた安倍首相が、せっかく生まれつつある「上昇」の「気」の流れを生かすことができるのか、今後の「采配」に政策責任者としての「器量」が問われると指摘している、9月11日付の記事を紹介する。
景気、天気、元気、病気、陽気、陰気、勇気、人気、活気。そして運気。ものごとの流れ、上昇、下落の流れを決めるのは「気」の流れである。 安倍晋三氏はこれまでのところ、強い運気を有している。
最大の強運は前任者が最悪であったこと。民主党の菅直人氏と野田佳彦氏が民主党を崩壊させたA級戦犯である。両戦犯の最大の誤りは、財務省路線に完全に乗ったこと。財務省の利権を切るはずの民主党政権が財務省の手のひらに乗って官僚利権を温存したまま増税路線に突き進んだ。震災・原発事故があり、日本経済を復興させることが最優先課題であったときに、増税まっしぐらの路線を突き進んだ。安倍氏が人気を得るのは簡単なことだった。財務省主導の財政再建原理主義にほんの少し修正の手を加えるだけでよかった。
第2の強運は、日本の株価が6月13日から7月18日にかけて急反発したこと。5月22日に15,627円まで上昇した日経平均株価だったが、6月13日には12,455円にまで急落した。昨年11月14日から反騰しかけて急騰した株価上昇の45%がわずか3週間で消えた。
アベノミクスの第一の矢、金融緩和を決定したら日本の長期金利が急上昇し、これが円高をもたらして株価が急落してしまったのだ。アベノミクスの幻想が一気にしぼんだ局面だ。
ところが、この窮地を救ったのは米国だった。FRB議長のバーナンキが量的金融緩和政策縮小を打ち出して米金利が上昇。連動して為替レートがドル高=円安に振れて日本株価が急反発したのだ。バーナンキが安倍政権救済を目的に動いたのかどうかは定かでないが、この金融変動がなかったなら、安倍自民党の参院選大勝はぐらついたはずである。
そして、第3の強運がオリンピック招致の決定。東京招致のために、巨額の闇資金が動いたと推察される。オリンピックはスポーツの祭典ではあるが、実態は利権の祭典である。この利権を確保するために、巨大な金が動く。私費を投じるなら許されるが、公金が闇資金となることにはメスが入れられなければならない。見かけ上の美談の裏に、どろどろの利権が渦巻いている。このオリンピックで東京招致が実現した最大の理由は、競合相手の自滅だった。内政不安とシリア不安がイスタンブールの障害になった。欧州政府債務危機、2024年オリンピック招致を狙う欧州国家がマドリッドの障害になった。日本では「オリンピックの前にやるべきことがある」のが現実だが、政治的にはオリンピック招致は恰好の得点稼ぎの成果になる。この果実を安倍氏が受け取ったことは強運のなせる業である。
しかし、「好事魔多し」という。この強運を生かせるのか。それとも、強運の上に慢心が生じて、事態を暗転させるのか。安倍氏の器量が問われる局面だ。何よりも大事なことは、「気」の流れを的確に捉えること。「気」の流れを支配することである。昨年11月から本年5月にかけて、安倍晋三氏は、強運な金融市場の流れを掴むことに成功した。その背景になったのは、昨年7月に米国長期金利が最低値を記録したことだった。私が執筆する政治経済金融レポート『金利・為替・株価特報』では、昨年なかばにこの点に着目した。
米国長期金利が7月に1.38%を記録し、これが、中長期の最低値になる可能性が高いことを指摘した。そのうえで、米国長期金利が最低値を記録するなら、円ドルレートがドル安=円高のトレンドからドル高=円安のトレンドに転換する可能性が高いと指摘したのである。アベノミクスの最大のポイントは金融緩和政策強化だったが、この施策によって円安=ドル高の流れが生まれる背景には、米国金利の上昇波動への転換があったのだ。これがなければ、円安=日本株高の激変は生じていない。これも安倍氏の強運を示す事例である。
問題は、せっかく生まれつつある「上昇」の「気」の流れを生かすことができるのか。それとも、この大切な「気」の流れを短命に終わらせてしまうのか。政策責任者としての「器量」が問われるのが、ここからの「采配」である。
※続きは、メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』(有料)」第662号 財務省主導の政策運営が日本経済を再転落させる」にて。
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