スーパーや専門店など、買い物の際に必ずお世話になるポリ袋、手提げ袋、保冷袋などを自社工場で一貫生産しているモロフジ(株)。エコバッグの普及により、スーパーでの利用は減少しているが、専門店ではまだまだ利用率は高い。買い物後にも、普段の生活で何かと重宝され、デザイン性が高ければ、2次利用され、それが店の広告宣伝にもつながるだけに、顧客のイメージを忠実に再現できるよう自社一貫生産を行なっている。併せて、価格でも他社との差別化を図るために、海外に工場を設立し、単価を下げる努力を続けている。2004年の上海に続き、10年にカンボジアにも進出。カンボジアでの先駆的なチャレンジについて、モロフジ カンボジアの現地責任者の諸藤洋平氏に話を聞いた。
――まず、カンボジア工場について、教えてください。
諸藤洋平氏(以下、諸藤) ベトナムとの国境にあるスバイ・リエン(Svay Rieng)州のバベット(Bavet)というところに、台湾資本が運営するマンハッタン経済特区があり、工場はそのなかにあります。バベットはベトナムのホーチミンから近く、ホーチミン港へのアクセスが容易なため、日本企業の進出が最近増えています。この経済特区には22のテナントが入っていますが、日本からの参入は弊社だけ。約半数が台湾、そして中国、ベトナムからの企業と続きます。
敷地面積は3万4,000m2、工場は4,500m2とかなりの広さです。従業員は日本人が私を含め2名、カンボジア人が約200名です。20代までの若者が多いですね。ここでは、主に日本向けのポリエチレン製ビニール袋を生産しています。設備はフルライン完備ですので、印刷、製袋、加工、検品まですべてをこの工場内で行なっています。日本へは40フィートコンテナ(長さ12.192m×幅2.438m×高さ2.59m、積載量約30トン)で毎月6~10本輸出しています。現状では、弊社の総生産量の約25%がここカンボジアで生産されています。
――カンボジアはビジネス環境が整っていると聞きますが、マンハッタン経済特区では、どのような優遇措置がありますか。
諸藤 カンボジアでは、2005年から経済特区制度が導入されました。首都プノンペンや周辺国との国境付近に設置されています。文字通り、経済発展のために法的、行政的に特別な地位を与えられている地域のことです。まず、経済特区進出企業は付加価値税(VAT10%)が免除されています。それから経済特区内だけではなく、カンボジア政府から適格投資プロジェクト(Qualified Investment Project、以下QIP)の認定を受ければ、以下の優遇措置が受けられます。
まず、(1)「法人税の免税、または特別減価償却の適用を選択」―では、最大9年間、法人税が免除されます。免税措置がない場合は法人税20%が課せられます。また、法人税免除を受けない場合は、特別減価償却の措置を受けられます。これは、製造・加工工程で使用される有形固定資産価格の40%を特別に減価償却できる制度で、資産を購入した最初の年度、または利用を開始した最初の年度に適用されます。
もう1つ、(2)「生産設備及び建設材料などの免税輸入制度など」――これは、QIPの種類によって変わりますが、輸出志向型QIP(Export oriented QIPs)および裾野産業QIP(Supporting Industry QIPs)には、生産設備や建築資材 、原材料、中間財、副資材の輸入関税が免除されます。一方、国内志向型QIP(Domestically oriented QIPs)は、生産設備や建築資材および輸出品生産のための生産投入財の輸入関税が免除されます。
――マンハッタン経済特区の特徴は?
諸藤 ベトナム国境から約5kmの地に位置しており、物流も発達しているため、ベトナムから原材料や技術が容易に取得できます。ホーチミン市を輸出入の拠点とすれば、経済特区からホーチミン国際空港までの距離はわずか65km。ホーチミン市サイゴン港へは80km、ホーチミン市内へもわずか86km。便利な交通アクセスで、陸運・海運時間が短縮でき、運搬コストが抑えられます。この立地の良さは、この経済特区ならではの特権と言えます。
――マンハッタン経済特区には22テナントありますが、日本企業は御社1社です。先駆的な進出だと思いますが、初めからカンボジアをターゲットにしていたのでしょうか。
諸藤 まず弊社では、04年に海外では初となる上海工場をつくりました。その後、第2工場として、比較的労働力の安いベトナムとカンボジアを検討していました。しかし、ベトナムではすでに競合先の中国工場が数社進出済みであったために、候補から外し、カンボジアを選択しました。日本向けの輸出を考えた場合、海上輸送時間がぎりぎり対応できる位置にあることが魅力で、マンハッタン経済特区からはベトナムのホーチミン港を使って輸出入が可能、日本向け輸出のリードタイム(発注から納品までにかかる時間)を他の場所よりも短くできるので、非常に都合が良いのです。もちろん、人件費が周辺国よりもずっと安いことも進出理由の1つですね。
――成長著しいカンボジアですが、当然リスクもあるかと思います。
諸藤 そうですね。まず、現地従業員は総じて真面目だと言えます。ただし、手作業の生産性は、中国と比較すると約70%程度に落ちます。今後は効率化を図って生産性を上げていく必要があります。また、人件費は弊社進出後のこの2年間で、1度大きく上昇しました。13年5月1日より最低賃金が月61ドルから80ドルへ上昇、基本給以外の諸手当については、不定期で上昇しています。
とくに深刻な問題となっているのは、電力不足です。ここ1年で進出企業が一気に増加したため、電力供給が不足しており、停電が頻発しています。弊社でも機械の稼働時間を夜間にシフトしたり、発電機の導入を検討したりしています。そのほかには、法制度が整っておらず、また整備されていても実行されない場合もあり、役所手続きに関する領収書の発行されない経費が発生します。ストライキも頻発しており、その際に法で定められた企業の権利が認められないこともあります。
――今後、カンボジアに進出する企業が増えてくると思います。日本企業にとって、カンボジア進出に必要なことは何でしょうか。
諸藤 中国生産と比較した場合、人件費は安いと思いますが、それ以外の経費が発生したり、そのコストが高かったりと、デメリットも存在するということに注意が必要です。デメリットも踏まえたうえで、人件費が安いメリットを自社の事業のなかで、どのように活かして事業構築していくのかをしっかり検討されることが必要ではないでしょうか。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:黒岩 一彦
所在地:福岡県みやま市瀬高町上庄663-2
東京営業所:東京都文京区小日向4-6-19
設 立:1974年10月
資本金:1,200万円
海外工場:上海諸藤包装制品有限公司(設立2004年)
:モロフジ カンボジア(設立2010年)
URL:http://www.morofuji.net/
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