<モンゴルの風力発電を日本で使う>
ソフトバンクの孫正義社長の壮大な夢が動き出した。携帯電話の世界制覇に向けた野望の前に、再生可能エネルギーへの情熱は霞んでしまったかに見えたが、そうではなかった。
朝日新聞(9月11日付朝刊)が「電力の風、モンゴルから」とのタイトルで、<乾いた風が、見渡す限りの高原を吹き抜ける。東京から約3,000km離れたモンゴル南部のゴビ砂漠。この風をとらえ、日本へ電気として送ろうという壮大な構想が、動き始めた>と報じた。
東京電力福島第一原発事故のあと、ソフトバンクの孫正義社長が打ち出した「アジアスーパークリッド」構想だ。
ジンギスカンが馬を走らせたモンゴル砂漠の片田舎のサルクヒトウル。首都ウランバートルから南に70km離れたこの地域は「風の山」と呼ばれる1年中激しい風が吹き荒れる所だ。この荒涼とした不毛な大地に風力発電を設置。ほとんど無限な風を電気に変えて、中国・韓国・日本まで引いてきて使う。これが「アジアスーパークリッド」構想。グリッドは送電網の意味である。
<孫正義のエネルギー革命>
孫正義社長は2011年8月に「再生エネルギー特別措置法」が成立したのをうけて、自然エネルギー財団を設立、自ら会長に就いた。自然エネルギーの普及を推進すべく、国内外と連携した活動を行なう公益財団法人だ。
自然エネルギー推進のために提唱したのが「アジアスーパークリッド(高圧直流送電網)」構想である。孫社長は自著『孫正義のエネルギー革命』(PHPビジネス新書)でこう書いた。
<アジアの国々をケーブルでつなぎ、自然エネルギーで発電した電力をやりとりするというもので、これが実現すれば自然エネルギーの弱点と言われる「コストが高い」「大量に電力を供給できない」「不安定である」という問題は、すべて解決します。
たとえばモンゴルのゴビ砂漠では1年を通して素晴らしい風が吹き、太陽が照っています。この風力と太陽光を使った電力の潜在量は2TWにのぼり、今日の世界的な電力需要の3分の2に匹敵する量です。
アジアだけなら、これだけで全体をカバーすることも可能なパワーです。そして、モンゴルと日本をスーパークリッドでつなげば、日本の電力問題はいっきに解決します>
<モンゴルで遊休地の賃借権を取得>
孫社長が「アジアスーパークリッド」構想の実現に向けて第一歩を踏み出したのは12年4月である。ソフトバンクは、モンゴルの投資会社ニューコムグループ、韓国電力公社の3社の合弁で、探査会社「クリーン・エナジー・アジア」を設立した。ゴビ砂漠で風力発電の候補地を選定、事業化の可能性を調査する会社である。
それに先立つ3月10日、東京のお台場で再生エネルギーがテーマの「Revision 2012」のセミナーが開かれた。孫社長は、ゴビの砂漠をはじめ中国の北京・上海、韓国のソウル、そして日本の東京を青い線でつないだ図面の前で、「アジアスーパークリッド」構想を力説した。
それから1年半。合弁会社が<ゴビ砂漠で、東京都の面積をしのぐ約22万haの遊休地の賃借権を政府から取得した>(前出の朝日新聞)。構想が動き出したのだ。
だが、最大のネックは送電網の整備だ。モンゴルで発電した電気は中国国内の送電線を使って沿岸部に運び、さらに韓国を経由し、海底ケーブルで九州北部に送ることを想定している。日本が中国、韓国との関係か悪化しているなか、どうやって、この難関を突破するか。孫社長の勝負どころである。
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