中洲2丁目で建設中の診療所付き高齢者向けマンションに、中洲関係者から不安の声があがっている。建設予定地があるのは国体道路と新橋通りに挟まれた区画。周辺には、多くの飲食店が軒を連ね、毎晩、多くの人と車が行き交い、賑わいを見せている。「中洲の一等地」とも言える場所である。
「高齢者向けという点では、そもそもニーズがあるのかと不思議に思うだけだが、診療所付きとなると無関心ではいられない」とは、中洲の不動産関係者。もし、同マンションに設置される「診療所」が、医療法で定義される「病院」となれば、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)の実施規則を定めた福岡県の条例上、半径50メートル内での新規出店ができなくなるからだ。
前出の通り、建設予定地の半径50メートル内には、風営法上、風俗店とされる多数の飲み屋が所在。禁止区域は、中洲1丁目にある性風俗店にもかかる。たった1棟のマンションでも、その内容によっては、歓楽街の広さや店の数から「西日本一の歓楽街」と呼ばれた、まちの有り様がガラリと変わってしまうのである。
福岡市に提出された建築計画概要書によると、主要用途は「サービス付き高齢者向け住宅(診療所付)」。オーナー側から十分な説明がなかったことで中洲関係者に不安が広がった。そこで中洲町連合会が、同マンションのオーナーに、その内容と目的を確認。「診療所とは、病院ではなくデイサービスだと説明された。一応、周辺の状況を理解した上で建てているのだから、後になって周囲の騒音などに対するクレームを出さないようにと、釘を刺しておいた」という。たしかに、建設現場の掲示物では、「(仮称)中洲2丁目サービス付き高齢者向け住宅新築工事」となっている。
なぜ、毎夜、喧騒に包まれ、酒の入った人々が行き交う歓楽街のド真ん中に高齢者向けマンションなのか。連合会の問いにオーナーは、「老後を中洲で過ごしたいから」と答えた。出来上がったマンションの一室は、オーナーの終の棲家にするというのだ。中洲を故郷のように思う気持ちの表れなのかもしれない。小生も中洲の酒を毎日飲んで老後を過ごしたい1人であるが、まちの有り様まで変えてしまっては本末転倒。同じくこのまちを愛する者としての、オーナーの良心を信じたい。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポートしてきた男の遊びコンサルタント。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の歓楽街関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲(福岡市博多区)にほぼ毎日出没している。
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