スイスで6月22日、男性への徴兵制を廃止すべきかどうかを問う国民投票が実施されたが、反対多数で、徴兵制廃止は否決された。武装中立と国民皆兵制(徴兵制)を国防の基本に据えているスイスでは近年、「他国から現実の脅威にさらされているわけではなく金の無駄遣いだ」として、国民の一部から徴兵制廃止を求める声が出ていた。しかし、最終的には国民の多くが、徴兵制を支持したのである。
<武装中立国家の誕生とスイス人の国防意識>
現在、スイスは永世中立国であるが、日本ではスイスを非武装中立国と思っている人が多い。しかし先述した通り、スイスは武装独立と国民皆兵制を国防戦略の基本に据えている。スイスは1648年10月24日、ヨーロッパの30年戦争が終わって締結されたウエストファリア講和条約において独立を達成する。このときからスイスは武装中立国家を目指して国家建設を進める。1648年というと、日本は徳川3代将軍家光の時代であり、日本が鎖国体制を本格的に始めたころだ。
現在もスイスの男子は19歳もしくは20歳になると、初年兵学校で15~17週間の新兵訓練を受けなければならない。その時に受領した小銃は、自宅に持って帰って格納する。その後、予備役という有事動員要員として、毎年3週間の訓練を10回に分けて受ける。訓練期間の日当と費用は、スイスの企業が80パーセント負担している。たとえ海外で生活をしていても、帰国をして新兵訓練、予備役の訓練は受けなければならない。もし悪意を持って、あるいは意図的にその訓練に参加をしなかった場合には、最悪の場合はスイス国籍を剥奪されてしまう。
またスイスでは、自宅に核シェルターがほぼ100パーセント完備をされている。スイスのパンは不味いことで有名だが、なぜスイスのパンは不味いのか。スイスでは、その年に獲れた小麦は、すぐには使わず、備蓄に回し、古い小麦から使うという政策を実施しているので、スイスのパンは不味いのである。
さらにスイス国内の道路・橋・橋梁・堤防などの公共施設は、有事には破壊して障害化できるように細工がされ、民間の飛行場も軍用に転換できる。農地も機関銃の陣地や、対戦車陣地がいつでも造れるような形になっている。個人の住宅も、腰から下の壁は小銃弾の貫通に耐えることができるくらい強度の強い壁になっており、家を建てる方向も、向きも、それぞれ有事の際に監視ができるように、陣地的な形でスイスの住宅は計画的に造られている。
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第4版)が発売された。 公式HPはコチラ。
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