厚労省は9月1日から30日までの1カ月間を健康増進普及月間とし、食生活改善普及運動と連携して、種々の行事等を全国的に実施している。そのなかで、農水省が「日本食と健康」をテーマに科学的な調査研究に乗り出すと述べたことは記憶に新しい。食生活による健康促進、増進の取り組みは、民間レベルで実績を挙げているところも多く、厚労省や農水省の取り組みが、これらの団体の取り組みを後押し、さらには牽引することになるか、今後の動向が注目される。そこで、8日に行なわれたNPO法人日本綜合医学界第5回九州大会「食が人を変える」の講演内容を振り返りながら、「日本食と子どもの教育」という視点でどのような活動が実施されてきたか、また現在、実施されているのかを改めて検証してみたい。
<学校給食を日本食に~長野県真田町の場合>
基調講演を行なった元長野県真田町教育長の大塚貢氏は、学校給食を日本食に変えたことで、生徒のいじめ、非行、引きこもりがなくなり、成績の面でも評価されるようになったという経験を記した著書を発刊しており、マスコミにも取り上げられている。
次に示すのは、真田町(現在は合併して上田市)の日本食推進活動が行なわれた後、2005年に実施された真田町の学力の結果のひとつである。Aは、学力が高いランク、Bは学力が中ぐらいのランク、Cは学力が低いランクを指す。
表が示すとおり、真田町のある小学校2年の子どもたちの大部分が、国語のテストにおいて学力が高いランクに入っている。同様の傾向は、同町A中学1年の数学テスト、B中学校2年の英語のテストでも見られた。
しかし真田町の子どもたちの成績は、1996年には決して芳しいものではなかったのである。大塚氏が同町の教育長に就任したときは、いじめ、非行、引きこもりが多い荒れた学校が多かった。先生たちが良い授業を行なっても、興味や理解を示す生徒は少なかった。食生活を徹底的に調査したところ、朝食抜きで登校する生徒が30%を超えていた。食べていたとしても、内容はパンとハム、ウィンナーなど。日頃の食生活も油類や肉類に偏った食事、合成保存料や化学調味料を含んだ食材が多かった。
そこでまず朝食を摂る様に指導し、せめて学校給食で野菜や魚を中心とした日本食を提供するようにしたところ、徐々に子どもたちが落ち着きを見せ始め、学習態度も改善された。その結果、理解力が高まったこと、また、理解できるようになったことで勉強が面白くなり、学力が向上していったと、同氏は語る。
「現在では、肥満児、生活習慣病予備軍はほとんどいなくなりました。重度のアトピーやアレルギーもほとんどいません。大阪から転向してきた女子生徒も、真田町ですっかり改善しました。しかし再び父親の仕事の都合で大阪に戻ったところ再発したので、また真田町で暮らしキレイな肌になりました」と大塚氏。
<医療費や介護保険給付金の増加を抑えるために>
現在は食育アドバイザーとして日本食の良さを普及する活動に尽力する大塚氏は、今回の講演のなかで、まず2009年に、厚労省が全国の高校生を抽出して血液や内臓肥満・コレステロール血症などの調査をした結果、男子44%、女子42%が生活習慣病予備軍であったというデータや、増加する医療費と介護保険給付費の問題に触れ、若者の健康改善に対する努力を放置したままでは長寿健康社会という目標を達成することは難しいという見解を示した。
大塚氏はまた、厚労省のがん早期発見推進ポスターにがんの早期発見、早期治療を進める記述のみが記されていることを掲げ、「国も自治体も、早期発見早期治療には取り組むものの、病気にさせない根本的な取り組みを積極的にしているとは言い難い」とし、「国民自身が未病に対する意識を高く持つことが大切」と述べた。
ちなみに厚労省が9月10日に発表した平成24年度医療費の動向資料によると、2012年度の医療費は、前年度比約0.6兆円増の38兆4,000億円であった。11年度は37兆8,000億円で前年同期比伸び率は1.7%である。介護保険給付金については、12年度が8兆9,078億円と前年比6.5%の伸び率を示している。
給食を日本食に変えることで、子どもたちの健康とライフスタイルを向上させれば、結果的にこれらの伸び率を減少させることができる、と大塚氏は考える。
それでは、真田町では学校給食にどのような献立を取り入れているのだろうか。
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