安倍総理の強運ぶりが世界の注目を浴びている。6年前に政権の座を投げ出した当時には、「復活するには最低でも10年は臥薪嘗胆の日々が続く」と見られていた。本人もそのような覚悟の程を、周囲の親しい人たちに語っていたようである。しかし、民主党政権が国民の信頼を裏切った事もあり、予定より早く自民党の総裁に返り咲き、その後は「強い日本を取り戻す!アベノミクス」を錦の御旗として掲げながら、破竹の勢いで衆議院、そして参議院の選挙を勝ち抜き、所謂「ねじれ現象」も一気に解消してしまった。
また、ロシアで開催されたG20の首脳会議を中途退席し、リオデジャネイロで開催されたIOCの総会に乗り込み、「福島原発事故の放射能の影響はコントロール下にある」と断言した。これが2020年の東京オリンピック開催に決定打となったことはご承知のとおりである。このオリンピック効果で、東京株式市場は連日大商いを続けている。
2020年の東京オリンピック開催は「アベノミクス3本の矢」に続く、4本目の矢として、受け止められているようだ。総理自身もそうした効果を計算しているに違いない。こうした経済に対する心理面でのプラス効果を受け、安倍総理は来る10月頭には消費税の増税に踏み込む意向を固めた模様である。
実際、このところ日本経済の状況は安倍総理の打ち出すアベノミクス路線を評価し、好ましい流れを見せている。景気は着実に持ち直しており、自律的回復に向けた動きも見られるようになってきた。物価に関しても、デフレ状況を急速に脱却しつつあるといえよう。今後の経済の先行きに関しても、円安の影響もあり、輸出が持ち直した意味は大きい。日銀が繰り出す各種の異次元レベルの政策効果が感じられる中、企業収益の改善が家計所得や投資の増加に繋がり、本格的な景気回復に向かう可能性が出てきたからだ。
もちろん、中国をはじめ、欧米諸国の景気の下振れが引き続き、我が国の景気を下押しするリスクはあるものの、大きなトレンドとしては、日本経済の回復基調が確実視され始めている。安倍総理にとっては、大きな追い風が吹き始めていると言っても過言ではないだろう。具体的なデータを確認してみよう。
本年、4月から6月期の実質GDPは、対前年比年率でプラス3.8%の増加を記録。設備投資、在庫投資、公共投資のいずれもがマイナスからプラスに転じている。その結果、名目、及び実質の雇用者報酬の額も対前期でプラス0.3%の増加となった。日本企業の設備投資の動向を見てみると、製造業に関しては、依然伸び悩みの傾向が見られるが、非製造業に関しては、対前年同期比で、4.7%の増加となっている。
大企業を中心に経常利益は順調な改善を見せており、機械受注に関しても持ち直しが明らかである。公共投資は堅調に推移しており、公共投資の請負金額を見れば、本年8月は対前年比でプラス7.9%の急上昇を記録している。住宅建設も好調で、本年7月の時点で、住宅着工件数は全国規模で、対前年比プラス12.0%。東日本大震災の被災地3県に限って見れば、対前年比で38.7%の増となっているほどだ。
注目すべきは、個人消費に持ち直し傾向が定着していることである。消費総合指数においても、実質雇用者所得においても、本年5月、6月には、明らかに対前年度比でプラス転換の傾向が見られた。雇用情勢と賃金の動向を見ても、アベノミクスの効果が着実に波及しているように思われる。有効求人倍率は、本年6月において、0.92%、7月には0.94%と着実に増加している。完全失業率は6月には3.9%、そして7月は3.8%と見事に減少傾向を示しており、雇用情勢の改善がデータの上で確認されるようになってきた。本年夏のボーナスは3年ぶりに増加に転じ、6月、7月の特別給与は一般労働者とパートを合わせて、対前年比、平均プラス2.1%。
一方、外需の動向を見ても、我が国の輸出が明らかに持ち直しの動きを見せていることが分かる。地域別の輸出数量でいえば、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、中国の順で、5月以降、対前年同月比プラスとなってきた。国内の鉱工業生産や出荷に関する動向も、軒並みプラスに転じてきているではないか。
さて、気になる物価の動きであるが、国内企業物価は緩やかに上昇を続けており、本年7月の企業物価データをみると、国内に関しては対前年比2.2%の増。輸入に関しては同じく18.5%の増。そして輸出は14.3%の増となっている。ガソリンも、農業機械や小型漁船向けの重油も高値圏で推移しているのは、景気にとってはマイナスではあるが、それを上回る形で消費者物価が、生鮮食品を除くコアにおいても、コアコアと呼ばれる生鮮食品や石油商品を除いた商品のいずれも上昇か横ばいの状況にある。
こうした数字から判断できることは、我が国の経済は間違いなくデフレ状況を脱しつつあるということである。その結果、安倍総理は消費増税の最終判断の環境が整ったと判断しているに違いない。バブル経済が崩壊して以降、我が国の財政は歳出が税収を大きく上回る状況が続いている。平成25年度においては、一般会計の税収は43兆円あまり。一方、一般会計の歳出は92.6兆円。リーマンショックが起きた平成20年度以降、景気の悪化に伴う税収の減少により、歳出と税収の差額は拡大する一方である。
当然その差額を埋めるために公債残高は年々増加の一途を辿っており、平成25年度末の公債残高は750兆円に上ると見込まれている。これは税収約17年分に相当し、将来世代に大きな負担を残すことは間違いないだろう。国民一人当たりに換算すれば、約588万円の借金を背負わされている計算となり、4人家族では2,353万円の負担となっている。
このような危機的ともいえる状況を改善、打開する上でも、安倍総理は消費税の5%から8%の引き上げは避けて通れないと判断し、来年4月からの実施に向けて意向を固めた模様である。消費税増税にともない、景気の腰折れを回避するため、政府は低所得者に現金を支給する簡素な給付措置も検討している。1人当たり1万円を現金支給する案が有力だ。過去の例でいえば、平成元年の600億円と平成9年の1,000億円弱と同様の対応といえよう。今回は市町村民税の非課税世帯2400万人を対象とするため、2,400億円の現金支給になる見通しである。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
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