MBAとは「Master of Business Administration」の略で、通常「経営学修士号」と訳される。国内では、MBAの学位を取得しても必ずしも給料が上がるわけでもない。出世できるわけでもない。そんななか、『I・B』1870号の特集「MBAの価値を問う」は、あるトップ保険マンがMBA教育の素晴らしさを語ったことから実現した。実際に体験者の話を聞くと、良き手ごたえがあるという意見を多数聞く。特集の取材に当たった2人の記者が、トップ保険マンをはじめとする、志高きビジネスマンがMBAを目指す心理と背景を探る。
<MBA取得を自己防衛のための鎧にしてはいけない>
記者K 今回私は九州大学大学院経済学府産業マネジメント科(以下、QBS)の取材を担当しました。QBSでもすでに様々な実績を上げてこられた方が取得を目指されていました。『IB』1789号4ページでは、QBS卒業生の経営者が「入学前までに培ってきた経験が、QBSでの講義によって論理的に構築された」と語ったことを紹介しています。それに対して、QBSの高田先生が「実務経験者は意外と暗黙知で意思決定を行なっているので、論理的に学ぶことによって、今までの経験が論理的に構築され、腑に落ちるようになる」と説明していらっしゃいます。QBSは設立当初から「仕事を学びに活かし、学びが仕事に活きる」という姿勢を大切にしており、入学資格にも「実務経験2年以上」という条件を掲げています。大学が母体という面を生かし、講師も学術者と実務経験者をバランスよく配しているのも、仕事と学びのバランスを大切にしていらっしゃるからだそうです。
記者I 仕事をしていると、学んだことを実際に役立てようという意欲も湧きますね。自分からいろんなものを掴み取っていく、という大切な姿勢を保ちやすくなります。そうやって経験を積み重ねていくと、今度は、何が起こっても対処できる、大丈夫と自信を持つことができます。動じない自分に成長できるところが良いところなのでしょう。しかし、学位を取得することだけを考えていると、学ぶものも学べない、という状況を生みそうです。
記者K MBA取得証書を、あたかも自分を守ってくれる鎧のように思っている人にとっては、真の学びはないでしょうね。QBS出身のある経営者の方は、入学前の面接時に答えに窮することを言われ、視点を切り替えて即答したそうですが、入学後、まさにMBAを学ぶうえで重視されているのが、どんな状況に置かれても臨機応変に対応できる能力であることに気づき、「面接時の応え方でその伸びしろがあると思ってもらったのかもしれない」と笑っていらっしゃいました。
記者I そもそも日本国内では、MBAの価値が外国のように認められていないですからね。
記者K 学びの価値は「私にはこれだけのことができるんですよ」ということを示して初めて、第三者に伝わっていくのでしょう。ですから環境によってはそれが伝わるのに時間が掛かる場合もあるようです。
<客観的に物事を捉える力は一朝一夕には身に付かない>
記者I そういえば、グロービスでクリティカルシンキングの講座を受けた方が、講座を受けた直後は意味が良くわからなかったが、後から意味と良さがわかってきたとおっしゃっていました。いくら良いものを学んでも自分の身につかないと使いこなせません。そのあたりでも、時間差が生じることがあるでしょうね。
記者K 思考法は、とくに日常的に使いこなさないと理解するのは難しい分野ですね。私がQBSで面白いと思ったのは、開講課目にクリティカルシンキングやロジカルシンキングがないことです。関係の方々に接し、最後に高田先生にお会いしたとき、先ほどお話したように、10年来変わっていないモットーが「仕事を学びに活かし、学びが仕事に活きる」であるとうかがいました。そのとき、物事を論理的、客観的に考える思考法のトレーニングを、日頃の講義で行なうことを大切にしていて、敢えてシンキング系の授業を取り入れていないのかもしれないと感じました。座学で学んで日常で鍛錬していくか、最初から実践のなかに自然と取り入れるか、どちらの方法でも良いと思いますが、論理に偏ってもいけないし、実践を重視しすぎて論理を否定してもいけないのだと思います。最終的には実践と理論のバランスを取りながら、自分の勉強を生涯続けていく姿勢を保つことが大切なのではないでしょうか。
記者I 確かに、常に勉強していくという姿勢を身につけられたことがよかったというMBA取得者の声も聞きました。
記者K 子どもの頃は「人生一生勉強だよ」といわれてもよくわかりませんでしたが、実際そうですね。時代の変化によって古びた知識に固執していては今必要なものが入ってきませんし。現在、市民レベルでも地域に寺子屋のようなものを作ろうという動きもあるぐらいです。生涯勉強して成長していこうという世の中の流れはあると思います。そのなかで、MBA取得に対する意識が高まる可能性も感じます。
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