「あるゼネコンの現場で、鉄筋工事の単価が6万円の値をつけた」との話が業界筋で流れている。しかも、破格の単価を呑んだのは、下請叩きで有名なスーパーゼネコンのA社。通常では考えられない単価設定に、その真偽をいぶかる声すら挙がっている。
鉄筋工事の単価が上昇基調にあることは疑いようがない。最近では3万5,000円を挟んで上下している模様で、ゼネコンが無理を承知で頼み込む現場では4万円台というケースも珍しくなくなった。それにしても6万円は破格。業者側は、仕事を断る口実にするつもりで高値を提示したが、予想に反してゼネコンA社がこれを呑んだというのが事の真相のようだ。衝撃の単価話は瞬く間に広がり、渦中の鉄筋工事業者は「俺が悪者になっちゃったよ...」と苦笑することしきりであった。
「売り手市場」「バブル」と言われる建築系専門工事業界だが、実際に単価の上昇が顕著なのは躯体系の鉄筋・型枠工事くらいのもので、塗装工事や建具工事といった仕上系の業者はほとんど恩恵を受けていないのが現状だ。躯体系の単価上昇が著しい理由の一つは、極端な人手不足にある。ほんの数年前、鉄筋工事の単価は2万8,000円(九州地区)前後にまで低下。1人工あたり約9,300円/日の請負代金から捻出される職人の給与水準は、職人離れを加速させる大きな要因となった。多くの鉄筋工事業者は、職人の生活を守るために社長の私財を投じて給与を補てん。この時期に多額の借金を抱えた業者も少なくなく、業者の廃業も相次いでいた。そこに昨今の建築ラッシュが訪れ、極端な人手不足が他業種よりも早い単価の上昇につながった。
加えて、業者間の横のつながりが強いことも影響しているように思われる。今年の春から夏にかけて、鉄筋工事や型枠工事の事業者団体は、適正単価と各種要望を携えてゼネコン各社の陳情周りを実施。機を捉えた動きにゼネコン側もこれを無視できず、要望の幾つかが今秋にも実現される見通しだ。こうした状況に照らせば、陳情活動は単価上昇にも一定の成果を残したといえるのではないだろうか。実際、事業者組合には加盟の問い合わせが増えてきている。
工事単価が景気の動向や需給バランスに左右されることは避けられない。しかし、景気の上向く気配を捉え、事業者が団結して交渉にあたることで、得られる果実を一層大きく育てることは可能だろう。比較的まとまりが良く、自ら率先して動いた先の2業種がいち早く大きな恩恵を受けた背景には、こうした事情も影響していると思われ、他の職種においても参考となる事例であると考えられる。
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