<「水巻町隣接地霊園問題」が残したもの>
新聞やテレビでも度々取り上げられた「水巻町隣接地霊園問題」。水巻町の町有地を中間市の霊園業者が「侵奪」した疑惑があるとして、町議会が当該業者と近藤町長の責任追及を声高に叫ぶ姿がメディアで報じられた。
ここで侵奪疑惑について簡単にまとめてみると、中間市の業者は水巻町との境界付近で2007年3月から動物霊園を開業。その後、人骨も受け入れる一般霊園化計画を進めるために、08年5月頃から水巻町に境界地の売り渡しを打診している。これに対して、水巻町は町有地の売却を拒否。ただ、当時の矢野町長は、谷地938m2の造成については許可を出している。これに基づいて谷地を埋め立てた業者側は、埋め立てによって新たに生まれた約8,800m2の町有地を、町に無断で占有利用していたのではないか――というのが新聞紙上で報じられた内容である。
疑惑の発覚は、近藤町長の就任から半年が経った10年6月。事実の発覚にともない議会主流派は町長との対決姿勢を強め、町に真相究明と警察への被害届(不動産侵奪罪)の提出、業者に対する損害賠償請求を強く求めることになる。以降、「近藤町長は消極的な態度に終始している」として、議会主流派は一層攻勢を強め、今日に至っていた。
しかし、この点について近藤町長に取材してみると、報じられた構図とはかなり趣の違う返事が返ってきた。まず、事態の究明についてであるが、後の調査(警察の捜査も含む)において、「前町長と担当課長が違法開発の全容を把握していたこと」や「造成完了までに担当課長が度々現地確認をしながら、1度も異議を唱えなかった事実」などが次々に明らかになったという。「恥ずべき杜撰さ」(近藤町長)には驚かされるばかりだが、これは同時に、町が不動産侵奪の被害届を出す立場にないことをも意味していた。不動産侵奪罪は、所有者の意に反して不動産の占有が奪われた場合に適用されるものである。本件では前町長や当時の担当課長がすべてを知りながら黙認していたのであるから、意に反して占有を奪われたことにはならない。
しかも悪いことに、「その黙認は、段階的に進められた造成工事において、許可の追認として捜査機関に認定された」のだという。つまり業者側は、終始、水巻町の許可を得たうえで造成工事を進めているとの認識を持っており、当初の許可範囲を超えた造成についても違法性の認識を欠いていたことになる。業者側には犯罪といえるだけの違法性が認められず、むしろ水巻町の落ち度が大きかった――水巻町民には承服しがたい事実であろうが、これが前町長の下で生じた「水巻町隣接地霊園問題」の客観的評価であった。
ただ、業者にも思うところがあったのだろうか。幸いにして、水巻町からの協議の要請に業者側が応じたことで、目下、「損害の回復に関する最終段階の調整が双方の弁護士を介して進められている」とされた。
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