日本時間の9月8日午前5時20分、IOC(国際オリンピック委員会)総会で、ジャック・ロゲ会長が「トウキョウ」と声を発した。それは、2020年「夏季五輪」の開催地が56年振りに東京に決定した瞬間である。現在日本中が歓喜にわいている。「私の想い!」を識者にきいた。今回は食文化史研究家の永山久夫氏である。この12月には「和食」が「ユネスコ世界無形文化遺産」に認定されると言われている。
<「日本の伝統文化」が世界に評価された>
――「2020年東京五輪」が決定しました。その瞬間に何を思われましたか。
永山久夫氏(以下、永山氏) 「日本の伝統文化」が評価されたと思いました。日本の伝統文化というのは、「おもてなし」という言葉にも表現される「やさしさ」です。それは、人に対するやさしさであると同時に、自然に対するやさしさでもあります。
今年は日本女性の平均寿命が長寿世界一に返り咲きました。東日本大震災の被災者・犠牲者の影響で、ここ1、2年は首位の座を奪われていました。富士山が「ユネスコ世界文化遺産」になり、日本女性が「長寿世界一」に返り咲き、この度「2020年東京五輪」が決まり、12月末には和食が「ユネスコ世界無形文化遺産」に決定しそうです。
誰が何と言おうと文句なしに、「日本の文化」が地球上の全ての国に注目され、普遍的に役に立つ時代がやってきたと言えます。まさに「クールジャパン」はここから本格的に始動するのです。
これらの全ての基本は「食」にあります。文化を作るのは人間で、その人間が創造性の高い仕事をするためには、心身ともに健康でなければなりません。その健康を左右するのは食であり、日本人は「なぜ長寿か?」というとそれは「和食」を食べてきたからということになります。
<外国人の来日目的の第1位は「和食」>
その気づきは、我々日本人より外国人の方が早いようです。日本に来る外国人の目的調査があるのですが、従来は「ショッピング」が1位だったのを、最近「和食」がそれを抜きました。お寿司、てんぷら、すき焼きからラーメンまで、単に食べるだけでなく「和食」文化そのものに関心が高くなっています。なぜこんなにシンプルなのに、美味しく、しかも健康にいいのかということです。
活動期の民族にはカロリーが高く、高タンパクのものが好まれます。それは正しい選択とも言えます。しかし、成熟、老境に向かうに従い、シンプルな食に移行(脂肪分の多いこってり系から脂肪分の少ないさっぱり系へ)せざるを得ないのです。そして、シンプルな食の代表は、世界一の長寿である日本人が食べている「和食」であることは疑いようがありません。そのことを地球全体が気づき始めているのです。
「2020年東京五輪」決定前からのことですが、最近フランスを始め、欧米の新聞社、TV局の取材、講演が急激に増えました。多くは「和食」と長寿、「和食」と日本の食文化等がテーマです。日本人が優れているという問題でなく、世界中で気づくことによって、地球にやさしい社会ができることを意味しているのです。
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<プロフィール>
永山 久夫 (ながやま ひさお)
1932年、福島県生まれ。食文化史研究家。長寿食研究所所長。西武文理大学客員教授(和食文化史)。古代から明治時代までの食事復元の第一人者。長寿の食生活を長年にわたって調査研究。TV、ラジオ等出演多数、講演実績も多数で、その招聘先は日本に留まらず、ヨーロッパ、アメリカ等にまで及ぶ。著書に、「なぜ和食は世界一なのか」、「日本古代食辞典」、「長寿村の100歳食」、「日本人は何を食べてきたのか」、「武士のメシ」、「食の決めワザ100」ほか多数。
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