長崎県・市が共同で「日中友好のシンボル」として整備する「孫文・梅屋庄吉と長崎近代交流史常設展示室(仮称)」事業で、長崎県発注の設計・施工業務の契約が、委託業者決定から約4カ月後だったことがNET-IBの調べでわかった。長崎県の財務規則は、落札者が決定したときは、直ちに入札者へ落札決定を通知し、通知した日から特別の理由がある場合を除き7日以内に契約締結を義務付けており、公共事業の契約の透明性から疑問がある。
孫文常設展示室の設計・施工業務は、プロポーザル方式で公募され、選定委員会が第1候補者(最優秀者)を選定。県文化振興課によれば、それを受けて県は5月15日に委託する業者を決定した。財務規則では、決定通知から7日以内に契約すると定められているが、NET-IBの取材に対し、県文化振興課は、9月に契約したことを明らかにした。契約が正式に締結されていないため、発注先が約4カ月間も伏せられたままという不透明な事態が生じた。契約は、随意契約で行なわれた。金額は9月末時点では公表されていないが、プロポーザル募集要項によれば、事業規模は上限約1億3,000万円。
長崎県は、一定の金額を超えた随意契約の透明性・公平性の観点から、随意契約した理由とあわせて、契約情報を公開している。しかし、孫文常設展示室設計・施工業務については、受注業者が決定していながら、契約されないうちは対象にならないので、契約情報は伏せられたままだった。
公共工事や公共調達をめぐっては、国・地方で談合や贈収賄が繰り返されてきた。内定した調達先が政治力で歪められ、別の調達先に変更される疑獄事件も起きた。
入札ではなく、随意契約の場合は、行政には透明性・公平性への配慮がとくに求められる。中立な選定委員会が公平に第1候補を選んでも、その後、政治力による巻き返しを許すなどして別の業者に引っくり返っていては、選定の公平性を保てない。そのような不当な介入を避けるためにも、プロポーザルの選定過程や結果は速やかに公表する必要がある。決定後、「7日以内」と契約期限を定めているのも、契約の安定性を確保する目的のほか、透明性・公平性を確保する狙いがある。
ましてや、まだ契約していないのをいいことに県民への説明、公開を免れるのは、県民にとってチェックすることもできず、不透明極まる。
長崎県は、今回の孫文常設展示室設計・施工業務のプロポーザルについて、「選定結果は公表しないと決定してプロポーザルを実施した」(県文化振興課)として、そもそもプロポーザル結果を公表していない(9月末現在)。今後も公開する予定がないという。
業者の決定から7日以内に契約されなかった経過について、県文化振興課は、NET-IBの取材に対し、「特別な理由があるとき」に該当し、「重要文化財の施設での整備なので、契約書を交わす前に、現場レベル、技術レベルでの細かい点まで協議が必要で、詰めるのに時間がかかった」と説明した。細かい点まで協議した結果について、契約書に記載するわけではないというので、契約を交わしてから協議しても差し支えがあるとは思えない。
長崎県は、開会中の県議会で、孫文常設展示室について進捗説明する予定だ。同展示室には、中国の要人の訪問も予定されている。事業実施にあたっても、国際的意義のある「日中友好のシンボル」にふさわしい高潔なスタンスで臨んでほしい。
「君は兵を挙げたまえ、我は財を挙げて支援す」。梅屋庄吉は、孫文との約束を終生、貫いた。公共事業の透明性・公平性は県民との約束だ。孫文と梅屋庄吉が嘆くようなことがあってはならない。
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