ネット選挙解禁後、初の国政選挙となった2013年の参院選を振り返りながら、今後、政治家は、政党は、そして有権者は、どのようにネットを政治活動や選挙運動で活用していったらよいのか、具体的方法論も入れて解説している。現場感にあふれ、とても面白い。
高橋茂氏は「デジタル軍師」の異名を持ち、選挙データベースサイト「ザ選挙」やネット放送局「radio VJ」を運営、武蔵大学社会学部非常勤講師も務める。2000年に田中康夫氏が長野県知事選に出馬・当選した際に活躍した市民の自発的な支援組織「勝手連」創設メンバー7人衆の1人である。
今回の史上初のネット選挙について、当初マスコミは「ネット選挙協奏曲」の如く、候補者や政党を煽った。そのために、政治をしらないIT企業も「ここがビジネスチャンス」と連日議員会館に押しかけた。ところが、選挙が終わると、マスコミは大した分析もせずに「ビジネスとして期待したほどではなかった」という一言で総括している。
<1万7,000人のネット監視団、応援団>
しかし、本書を読むと、自民党、共産党が躍進した理由が実によく分かる。自民党のネット戦略は鉄璧である。平井卓也ネットメディア局長を中心に世耕弘成参議院議員や橋本岳衆議院議員など党内に人材が豊富だ。そして、注目すべきはJ-NSC(自民党ネットワークサポーターズクラブ)の存在である。2009年に野党に転落した際、ボランティアを企画に参加させ作らせた組織である。会員は約1万7,000人で、今回の参院選でも、さながら「ネット監視団、応援団」的役割を果たしている。
<旧共産党のイメージを完全に払拭>
一方、この自民党にも増して最もネット効果があったと言われているのが共産党である。
それまで使わなかったピンクやイエローを大胆に使い、ネット番組「とことん共産党」やネット用キャラクター「カクサン部」を創り、とにかく明るい。この結果、都議選で躍進、参院選で議席増につながった。従来の共産党のイメージを完全に払拭したのである。旧共産党を知っている人が見たら、腰が抜けるかも知れない。
<きっと、政治は変えられると信じる>
政治家にとって選挙は恐怖でもある。当選か落選しかない。つまりは、生きるかしぬかである。そこで、投票してくれる、自分を代議士にしてくれる人だけを大事にするのである。その結果、日本中に無駄な高速道路ができ、必要のない新幹線ができた。山が切り崩され巨大なダムも、誰も使わない箱物もできた。全てそれを作ることによって仕事を得る人、莫大な利益を享受する団体があるからである。
しかし、「ネット選挙」が軌道に乗ることによって、これからの政治家は当選した後にも、常にネットからの声や評価に晒されていくことになる。将来的には投票率がアップし、カネのかからない選挙が実現、立候補の敷居も下がる。それは、地方議員のウェブサイトの開設率が100%に近づいた時に来る。国会議員のそれはすでに100%だ。その結果、「日本の政治が変わる」ことができるのではないかと著者は分析する。今回、泡沫候補と言われた緑の党の三宅洋平氏が17万6,970票を獲得したことや、約70万票で当選した吉良よし子氏(共産党)や66万票で当選した山本太郎氏(無所属)の結果に、すでにその兆候が出ているのかも知れない。
<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
※記事へのご意見はこちら