100年を超える業歴を誇る（株）石村萬盛堂は、菓子を通じて博多の街を支えてきた老舗である。1945年には、空襲で博多の街は焼け野原となってしまった。それでもすばやい復興を成し得たのは、博多の街の持つ底力だと同社代表の石村善悟氏は語る。日本の玄関として、おもてなしの街として、博多の街には強い復元力があるのだという。博多の街と、おもてなしと菓子について、石村社長にうかがった。

＜焼け野原からの復興＞
　創業は1905（明治38）年。100年を超える伝統とともに、明治、大正、昭和、平成と激動の時代を博多の地とともに生きてきた菓子店が、石村萬盛堂である。現在、３代目の石村善悟社長がその辣腕（らつわん）を振るっている。
　「博多の街は、庶民の力で支えられているように思います。私は昭和23年に生まれ、戦後以降の発展を目の当たりにしてまいりました。私が生まれる前、戦中に一度、本店があった対馬小路あたりは完全な焼け野原になったと聞いております。それでも、私が生まれて以降の写真などを拝見しますと、すでに復興が完了し、２階建ての建物、３階建ての建物が見受けられるほどに戻っております。この復旧力こそが博多の底力ではないでしょうか」。

　1945（昭和20）年６月19日と20日、博多の街は戦火に包まれたという。いわゆる「福岡大空襲」だ。焼夷弾が建物に火を付け、町は２日間で壊滅した。罹災戸数１万2,693戸、死者902名、罹災者６万599名という、大きな悲劇となった。戦後、いつまでも悲しんでいられないと、地域の人々は復旧に取り組んだのだ。そのスピードが見事だったと石村社長は語るのである。
　「私が子どもの頃の写真などを見ても、戦争が行なわれたことを連想させるものはありませんでした。つまり、昭和23年には完全に復旧していたことになります。街の復旧が容易ではなかったことは想像に難くないのですが、それでも博多の人たちは素早くやってのけました」。

　博多の人々の街を思う気持ちが復興につながったのだろう。一方で、強（したた）かさもあったと思われる。終戦直後、博多港は焼け野が原ながら、その地政学的な優位性から国内最大級の引揚援護港となった。中国や朝鮮半島などから邦人が次々と帰国する、まさに玄関口として博多は機能したのである。空襲、敗戦。絶望的なシチュエーションにもかかわらず、街は人であふれかえる。人が集まれば商売が生まれる。サービスが生まれる。そうしたものも復興への原動力となったのだろう。石村社長はこうも言った。

　「当時、菓子商として腕をふるっていた父も、さすがに敗戦という状況下で迷いはあったと聞いております。こんな状況で菓子をつくっていいのだろうか。やるべきことは他にあるのではないか、と思い悩んだと言っておりました。悩みながらも、自分は菓子商だと奮い立って、引き揚げていらっしゃる方々にぜんざいなどを振る舞ったと聞いております。このぜんざいが大変に人気を博したとも言っておりました。それを聞き、菓子とは人の心を安らかにする大切なものだと改めて感じましたね」。

　1944（昭和19）年、上洲崎町にあった同社の本店は強制疎開の対象となってしまった。しかし、それにより空襲の被害を免れ、復興の最前線に立つことができたのだ。石村萬盛堂は戦後の混乱期におもてなしを通じて、疲れ果てた人々に癒しを提供してきたのである。菓子はぜいたく品にあらず。明日への活力源だったのである。その後、その製造技術を用いて菓子だけではなく給食用のパンなどもつくり、博多っ子の腹とゆとりを支えてきた。

　「戦中、戦後は砂糖の入手すら難しいときがあったと聞いております。菓子屋としては厳しい時期もありましたが、博多の皆さまのおかげで、菓子をつくり続けることができました。博多の街には主人公はいないように思います。全員が街を愛し、街をつくりあげていく。それが博多の都市力の源泉なのだろうと思います」。

｜　（後）　≫

＜COMPANY INFORMATION＞
代　表：石村　善悟
所在地：福岡市博多区須崎町2-1
設　立：1905年12月
資本金：9,500万円
ＴＥＬ：092-291-2225
ＵＲＬ：http://www.ishimura.co.jp/

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