日本時間の9月8日午前5時20分、IOC(国際オリンピック委員会)総会で、ジャック・ロゲ会長が「トウキョウ」と声を発した。それは、2020年夏季五輪の開催地が56年振りに東京に決定した瞬間である。現在、日本中が歓喜にわいている。「私の想い!」を識者にきいた。今回はエコノミストで早稲田大学政経学部教授の原田泰氏である。
<欧米の先進国、大国と肩を並べる>
――2020年東京五輪が決定しました。その瞬間に何を思われましたか。
原田泰氏(以下、原田氏) 嬉しかったですね。自分でもこんなに嬉しくなるとは想像しませんでした。
国民が「日本がもうダメで、世界で相手にされていないのではないか」という漠然とした不安を持っていたその時に五輪が決定しました。夏季五輪を2回以上開催した都市は4つ(ロンドン<3回>、パリ、ロスアンゼルス、アテネ)しかありません。皆、欧米の歴史的に先進国や大国だったところの都市です。東京はそれらの都市と肩を並べたことになります。
世界が認めて支持してくれました。「日本であれば、間に合わないとかスケジュールがガタガタする心配がなく、間違いなく、滞りなくできる」という先進国としての信頼の証ともなりました。初めて南米の都市で行なうとか、初めてイスラム圏の都市で行なうことはとても意味のあることだと思います。しかし、IOCという運営者側にとっては、安全が確保され、安心を持って任すことができることも重要な要素なのでしょう。東京はその点で評価されたと言えます。
今回は、日本のほとんどのTV局がIOC総会、決定場面をさながら、"パブリックビューイング"の様に放映しました。安倍総理を初めとする日本の指導者、猪瀬東京都知事、皇族、スポーツ選手などが一丸となって「東京に来て欲しい」という気持ちを訴えました。TVを通じて、多くの国民が同じ気持ちを共有できたと思います。
<外国人観光客が次から次にやって来る>
東京だけが良くなるのではないかという不安をお持ちの地方の方のご意見もあります。しかし、観光客は現在の1,000万人程度から3,000万人近くまで増えると政府は言っています。観光が日本経済におよぼす影響は、従来よりも大きくなるでしょう。
初めて日本に来る方は、東京以外では、京都や北海道の観光が人気の中心になるでしょうが、それ以外の地域、富士山のある静岡県・山梨県、阿蘇山とか温泉が有名な九州とか、日本には魅力ある観光地がたくさんあります。各地方は世界に向けてその魅力をアピールしていく必要があるでしょう。
今までは、観光客を増やそうと様々な企画を考えても、追い風がありませんでした。今度は、何もしなくても、外国人観光客が向こうから勝手にやってくるのですから、大きなチャンスです。
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<プロフィール>
原田泰(はらだ ゆたか)
1950年生まれ。
1974年東京大学卒業後、同年経済企画庁入庁、ハワイ大学に留学(経済学修士)、経済企画庁国民生活調査課長、同海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長、大和総研専務理事チーフエコノミストなどを経て、現在早稲田大学政経学部教授兼東京財団上席研究員。
著書は、『震災復興-欺瞞の構図』『日本はなぜ貧しい人が多いのか』『世界経済 同時危機』(共著)『日本国の原則』(石橋湛山賞受賞)『人口減少社会は怖くない』(共著)『昭和恐慌の研究』(岩田規久男氏他共著、日経・経済図書文化賞受賞)『都市の魅力学』『日本の失われた十年』『日米関係の経済史』など多数。
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