<ファミレス家族の諍い>
今年3月半ばのことだ。単身赴任中のとある地方都市の23時00分。楽しい宴もお開きとなり、ビミョーに千鳥足をもつらせ、単身マンションに帰宅途中だった。ファミリーレストランに掲げられた「昔ながらのナポリタン」の宣伝文句に反応してしまった小生。締めのラーメンならぬ「ナポリタン」かぁ・・・と、「デブになっちゃうぞ~」という天使からの戒めの御言葉よりも「食っちゃえ、食っちゃえー!! きょう1日くらいよかばい」という悪魔の声に乗せられてしまう・・・(トホホ)。
そそくさとテーブルに座ると、思いがけず、店内は20代とおぼしき若者を中心に、そこそこ賑わっている。お目当てのスパゲッティが運ばれてきたのとほぼ同時に、小生の横の通路を挟んだ4人掛けのテーブルに、小学3~4年生ぐらいの女の子と両親の3人が着席した。
「小さな子供がいるのに、ずいぶん遅か晩メシやね~」内心そう思いつつ、その親子連れを何気に見やると、椅子に座るや否や、ブスッとして口を尖らせているのがやけに印象的なお母さんが、「どうせあたしは稼ぎがゼロで身分の低いオンナですから、1番安いメニューでいいです」と旦那さんをひと睨み。その毒のある挑戦的な発言に、小生も思わず食べる手を止めてしまった。
旦那さんはというと、一見、けっこう爽やか系の面立ちなのだ。無愛想な奥さんとはどう見ても不釣り合い。子供も、身なりを含めてどこにでもいそうなフツーそうな女の子。そのぶん、奥さんのブスッとした雰囲気が否応なく引き立ってしまう。どうやら奥さんは旦那さんのご両親に対して不満を爆発させているようだ。
「まいったなぁ、こげな場所で、家庭内争議&夫婦喧嘩はかんべんしてぇな~」小生はそうぼやきつつも、やけに気になってしまう。横目でチラリチラリ・・・。これもまた、「他人の不幸は蜜の味」なのだろうか(苦笑)。小学生の娘はというと、この状況に慣れっこのよう。「見ざる・聞かざる・言わざる」の三猿さながら、お母さんの口角から唾がとびはじめると、サッとケータイ電話に逃げ込む。
しばらくすると、一方的に口撃されていた旦那さんがようやく反撃を開始した。周りのお客に配慮したかのような「静かな反撃」だ。
そんな家族の情景を2mと離れていない隣の席で目の当たりすると、「鋼鉄の胃袋」の異名で鳴らした太郎ちゃんでも、さすがにナポリタンが喉を通らない。砂を噛むとはこのことか。不味いし、胃も重たい。物ごころついた頃から、ばあちゃんから「食い物を粗末にしたらいかんばい。残したら罰が当たるけんね」と教え込まれた。悶絶寸前で「昔ながらのナポリタン」を何とか逆流性胃炎一歩手前状態で胃袋に流し込む。妙に暗い気分で店を後にした。
<偶然のいたずらはほろ苦い?>
ファミリーレストランからの帰り道、消化不良で気持ち悪くなりながら、「はたしてあのお母さんに育てられたお嬢さんはいじめっ子になるのかな、それとも、いじめられっ子になるのかな・・・? 麗しい淑女になったとしたら、男を騙す方になるのかな、騙される方になるのかな・・・?」そんなことを考えながら、なぜか感傷的になってしまったのである。食事に重要なのは新鮮な食材と栄養バランスだけではなく、心の栄養も合わせて吸収しなければならないのだ! 偶然居合わせた家族の情景から、小生は改めてしみじみ実感した次第だったのである。
健康食品では補えないからだの隙間がある。ナルホド「食育」ってのは、けっこう大切なものなんだと、妙に納得。でも、あの娘さんの将来は?
その昔、営業の合間に浜松町の恩賜庭園でベンチに腰を下ろし、棒になった足を休めていたときのことだ。ノルマには程遠い成績を呪いながら池の面をぼんやりと眺めていると、「ちょっと宜しいですか?」と男性に声をかけられた。振り向くと三脚のついたカメラと大きなマイクを肩に担いだ男性が2人立っている。
「〇〇テレビの者ですが、その後ろ姿、ちょっと絵になるものですから、撮影させて頂いて宜しいですか?」
きょとんとしていると、彼らは人気のお茶の間番組のスタッフで、番組の合間に流す街角風景として、小生の背中を点景に、庭園のようすを放映したいとのこと。そうか、俺の背中は絵になるのか? 胸中ニンマリとしたものの、OKが出てから御礼のテレホンカードを手にしたとき、なんともやりきれない思いにとらわれた。あのときの、偶然の出来事で味わったほろ苦い感情になんとなく似ているような気がする・・・。Are you happy ?
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<プロフィール>
山笠太郎(やまがさ たろう)
1960年生まれ。三無主義全盛の中、怠惰な学生生活を5年過ごした後、大手食品メーカーにもぐり込む。社内では、山笠ワールドと言われる独特の営業感で今日に至る。博多山笠は日本一の祭りであると信じて疑わない。
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