<伝統と革新と>
福岡は元来、その地政学的な優位性から海外とのつながりとともに歩んできた。鴻臚館の時代、元寇の時代。それぞれの時代で日本の玄関としての役割を担ってきたのである。いらっしゃったお客さまをお迎えする街。いわば「おもてなしの街」なのである。そのなかで同社は、菓子を通じて博多の街の文化を支えてきたのだ。
「店にいらっしゃったお客さまに椅子をすすめ、茶を差し出す。これは私の母が生前やっていたもてなしそのものです。父は経営者・菓子職人として店を守り、母は店頭でお客さまをお迎えするという役割分担でした。そのときのもてなしの心をこれからも大切にしていきたいと思っております」。
現在、石村萬盛堂は博多エリアのみならず九州全域に出店するに至った。しかし、そこに貫かれているのは代々受け継がれてきた博多の伝統、もてなしの心である。多店舗展開する折に、最も重要視している部分なのだそうだ。時代がどれだけ流れても、変えてはいけない大切なものは守り続ける。それが博多っ子の伝統であり、石村萬盛堂の誇りなのである。
伝統とともに新しいもの好きというのも、博多っ子の気質なのかもしれない。街には常に新しい風が吹いている。JR博多駅の改築や、大型商業施設の充実など、話題にこと欠かないのも博多の特徴である。守るものを守り、新たなチャレンジも続けていく。
「伝統と挑戦の両立は博多の特徴かもしれません。私たち石村萬盛堂も同じように、守ることと挑戦することに取り組んでまいりました。私たちの一番の柱商品は、戦前からずっと守ってきた鶴の子です。突出して売れているというわけではないのですが、1年を平均して安定した売上を計上しております。変わらぬ味を守り続けていくことも私たちの使命と思っております。一方で、洋菓子などは毎シーズン新製品を考え、新たな味を提案し続けております。毎日の生活に彩りを与えてくれるお菓子として、チャレンジを続けていくことも私たちに求められているのだと思います」。
博多っ子の気質こそが石村萬盛堂の根幹をなしていると石村社長は言う。銘菓鶴の子は、餡をマシュマロで包んだ戦前から続く博多のお土産菓子の代表格である。このマシュマロのきめ細やかさは他国のものとは明らかに一線を画している。今後、国内にとどまらず、このマシュマロの味を海外にも広めていきたいと石村社長は意気込む。守ること、挑戦すること。この2つがおもてなしの街・博多を支え続けている。
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<COMPANY INFORMATION>
代 表:石村 善悟
所在地:福岡市博多区須崎町2-1
設 立:1905年12月
資本金:9,500万円
TEL:092-291-2225
URL:http://www.ishimura.co.jp/
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