<五輪なら、どんなにお金をかけてもよい?>
――これから日本は「2020年東京五輪」に向けた新たな7年間を踏み出すことになります。この点について一言頂けますか。
原田泰氏 オリンピックを成功させるためにやらなければならないことは決まっているので、日本政府には無駄なく、無理なく、効率よく進めて欲しいと思っています。
デザインが絡んで難しい問題ですが、施設建築についても無駄はいけません。最近話題となっているものに、「新国立競技場」があります。イラク出身の女性建築家ザハ・ハディド氏による設計でとても大胆なデザインになっています。しかし、日本を代表する建築家の槇文彦氏、伊東豊雄氏、隅研吾氏等は景観や安全性などの観点から議論があるようです。
総工費も、ザハ・ハディド氏に決まった当初は1,300億円と言われていましたが、それでできるのでしょうか。経費だけを切り詰めて、箱型のデザインでいいとは思いませんが、規模も含めて「五輪のためなら、どんなにお金をかけてもいい」とはならないと思います。選手村やその他の競技施設についても同様です。
新国立競技場の建つ神宮外苑は東京の中心部にあって、JRと地下鉄の3つの路線の4つの駅が徒歩圏内にあり、たいへんに交通の便がよいところです。渋谷や新宿という都内有数の繁華街にもすぐ出られます。多くのスポーツ施設も集積しています。まわりには飲食店も多く、観戦の余韻に浸ることができます。世界中の大都市を見渡しても匹敵するところは少ないと思います。ぜひ、その後も有効活用できる施設を、知恵を絞って作って頂きたいと思います。
「2020年東京五輪」そのものは、東京都と国とスポーツ関係者の仕事です。しかし、3,000万人近い外国人客が来日することになるでしょうから、国民もボランティア活動などを通じて参加するよい機会でもあります。
<この約1兆円の使い道は明解です!>
現在、日本政府は補正予算で5兆円を使うと言っています。7.5兆円増税「消費増税」するから5兆を使って景気が悪化するのを避けるというのです。しかしこの考えはおかしいのです。そもそも、なぜ「消費税」を上げるかと言うと、財政赤字を減らすためではなかったのでしょうか。ところが、いつのまにか、政治家も役人もそのことをすっかり忘れ、消費税が入ってくるからどんどん使おうという状況になっています。
前回の安倍政権から、現在まで6年間で20兆円も財政支出が増えています。高齢化でやむをえず増える分が年に1兆円ですから、14兆円は訳もわからないうちに無駄遣いしてしまったのでしょう。10%まで消費税を引き上げても、12.5兆円しか確保できず、20兆円には足りません。
このような無駄に比べれば、今回の「2020年東京五輪」の約1兆円の使い道は明快です。鉄道、インフラの整備等を含めてすべての事業を1兆円でできるのなら良いと思います。
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<プロフィール>
原田泰(はらだ ゆたか)
1950年生まれ。
1974年東京大学卒業後、同年経済企画庁入庁、ハワイ大学に留学(経済学修士)、経済企画庁国民生活調査課長、同海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長、大和総研専務理事チーフエコノミストなどを経て、現在早稲田大学政経学部教授兼東京財団上席研究員。
著書は、『震災復興-欺瞞の構図』『日本はなぜ貧しい人が多いのか』『世界経済 同時危機』(共著)『日本国の原則』(石橋湛山賞受賞)『人口減少社会は怖くない』(共著)『昭和恐慌の研究』(岩田規久男氏他共著、日経・経済図書文化賞受賞)『都市の魅力学』『日本の失われた十年』『日米関係の経済史』など多数。
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